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『或る家の灯』前田雅峰


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 そんな順次の仕事への打ち込み、それらを毎日楽しそうにこなす姿を見ながら、順次の両親はとても喜んでいた。もう老齢で仕事を退職していた父は、或(あ)る日軌道に乗って川桁迄出掛けた。すると途中の樋ノ口駅で転轍機の整備点検をしている順次を見掛けた。順次は転轍機を操作しながらあちこちに注油し、何度も操作して動作を確認していたが、その作業をしている順次は穏やかな笑顔だった。家に帰ってから父はその事を母に言った。
「順次が樋ノ口の駅で、機嫌良く仕事していたよ」
「それは、良かったです」
 母は、順次は此の土地に残ると自分で言ったが、それは順次の本心なのかと密かに心配していたので、こういう話を聴くと特に喜んだ。
「嬉しいです。此処に残ると言ってくれた順次が喜んでいるというのは」
 順次がその日の仕事を終えて家に帰って来ると、母親が順次に言った。
「今日ね、父ちゃんが樋ノ口の駅であんたが働いているのを見たって」
「そうなのか。声掛けてくれたら良かったのに」
 順次は母と父ににこりと笑い、そして言った。
「父ちゃん、母ちゃん、軌道の仕事、僕は楽しいよ」

 或(あ)る冬の日に不図(ふと)順次は思い付き、スキー客満載の列車の後に続行運転で予備の機関車を沼尻に向かわせる事を上役に進言した。
「木地小屋からの登り勾配、あれだけ箱を繋いでいたら危ないと思います」
 此の進言は直ちに採用され、待機室で煙草を吹かせて寝そべっていた機関車運転士に出撃命令が下った。順次の心配した通り、限界迄客車が増結された旅客列車は、木地小屋から沼尻への急勾配に挑む以前に、木地小屋迄の緩勾配で既に車輪を空転させており、満載のスキー客が車外に降りて乗降用の手摺などを持って側面から編成を押していた。順次の進言で列車を追いかけた後続の機関車が到着するや、直ぐに後補機として列車を後押しし、更に木地小屋から沼尻への急勾配では前後の機関車が全力を出して、何とか列車を沼尻駅に進入させる事が出来た。沼尻駅長からの電話で事の次第を知った軌道会社の重役は、直ちに順次に褒賞の金一封を出したが、順次はそれを開けもせずに、家に持って帰って両親に手渡した。
「母ちゃん、こんなの、貰ったよ」
「えーっ、これは、金子かい」
「父ちゃんも見てよ。今日、仕事で褒められたんだ」
「そうか」
 父は静かに、しかし嬉しそうに笑顔で返事した。

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