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『込められた想い』霧赤忍


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 僕は見てはいけないものを見たような気がした。
「こらー大樹! ねえ、はやく投げてよー!」
「…………」
(絶対にきついはずだ。立っているのもやっとのはず。なんで声だけはいつものお母さんの声なの)
 僕はどうしていいかわからず立ち尽くしていた。
「大樹―!」

「おうぅ、今年はどこが優勝するかのぅ?」
「今年は東北勢がくるかもわからんな」
「そうか? 俺は九州勢がきそうな気がするけどな」
 夏の甲子園の季節がやってきた。
 忘れることのできないあの日。
 母さんの最初で最後のバッターボックスから十五年の月日が流れた。
 僕、いや俺は二十六歳になった。俺は高校を卒業して就職した。
 けど昨年、祖父ちゃんの傘寿のお祝いの時『もう、いいかげん仕事はよいわぁ、これからは高校野球だけでええ』と引退宣言したため家の事業が親父一人になった。俺もいつか手伝う心づもりでいたから、じゃあこの機会にと俺たちは実家に引っ越した。
 会社は親父が社長で俺が専務……ではなく平社員として働いている。母さんの担当していた経理部長は里香(りか)が担当してくれている。ちなみに俺の嫁さんだ。高校時代からの付き合いで四年前に結婚した。
 子供も授かった。現在、二歳の男の子、名前は知樹(ともき)。元気なのは嬉しいが、どうにもワンパクすぎる気がする。つい先日、祖父ちゃんが知樹を抱き上げると豪快におしっこを漏らした。おむつはもう取れていたので祖父ちゃんは水浸しになった。濡れたシャツの襟元をパタパタさせ『将来大物になるわぃ』と祖父ちゃんは笑っていた。
「はーい。三人ともー、お茶入りましたよー」
「おうおぅ。ありがとうなぁ里香しゃん」
「おっ、すまんね、里香さん。おい大樹、この試合終わったら茶菓子買って来い」
「はいはい」
 肩を寄せ合って野球中継を見ているが、二人掛けのソファに三人はけっこうきつい。十五年前と同じソファだけど、うちになくてはならない物に思えて買い替える気にはなれない。
「よし。知樹もこっち来い」
 なんとなく知樹も入れて四人で野球中継を見たくなった。膝に乗せれば大丈夫だろうとおもちゃで遊んでいた知樹に手招きした。
「アハハハ、あのー、三人、そっくりすぎて逆に変ですよー」
「え?」
 笑い転げている里香を見て隣に目をやると親父たちも手招きしていた。
「お……」
 親父と祖父ちゃんと目が合うと妙な恥ずかしさを感じた。二人も俺と同じ感覚だったのか苦笑いをしていた。
「三人とも招き猫みたいですよー、アハハ」
「…………」
 そう言えば俺も以前、親父と祖父ちゃんを見て招き猫と思ったことがあった。今は俺も招き猫なんだと思うと言葉を返せなかった。自分ではわからないが似ているのだろうか。
 そのご利益だろうか。知樹が引き寄せられるように俺たちのもとにきたので、四人で甲子園を見ることができた。
「おし、試合終わったな。じゃあ茶菓子買いに行ってくるわ」

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