今の僕にできることは少しでもお母さんを元気づけること、そのためにはホームランしかないと思い練習を頑張ることにした。
お母さんは二週間を過ぎても戻ってこなかった。
僕は毎日、お父さんに病院に連れて行ってとお願いした。お父さんは『医者の段取りが悪いから時間がかかっているだけだ、心配するな』と言い続けた。
一人で行こうとしたらお母さんは県外の病院に検査のためにいると言われて、場所がわからずどうすることもできなかった。
お母さんが帰らないまま試合当日の朝を迎えた。
「大樹、良い話があるぞ。お母さん、お前の試合見にくるからな」
「……え! ホント?」
「ああ、今朝電話があった。試合までには俺が連れてくるから待っていろよ」
「うん! ヤッター!」
僕は思わず飛び上がって喜んだ。朝ごはん中だったからお味噌汁をこぼしてしまった。
お母さんにホームランを見せてやるぞと心で叫んだ。
お祖母ちゃんのいる仏壇に手を合わせて「行ってきます」の挨拶をして、お祖父ちゃんと試合のあるグラウンドに向かった。
試合は九回の裏で僕たちのチームが負けている。僕は九番ライトで出ているけど三打数ノーヒット。今日はバットを一回も振ることができていない。
その理由は、お母さんが来てないからだ。
お祖父ちゃんは大声を出して応援してくれているけど、僕はずっと別のことを考えている。
お母さんに何かあったんじゃないかと、そればかり考え胸が張り裂けそうだ。
僕に打順が回ってきた。これでアウトならゲームセットの打席に立った。
〈ストライク〉
〈ストライク、ツー〉
僕の頭は野球どころではなく、ただお母さんの事だけを考えていた。
「こら、大樹っ! ちゃんとバットを振りなさい!」
「え……あっ! タ、タイム」
遠くからでよく姿が見えないけど、お母さんが大きな声で応援してくれている。来てくれたことに安心した。
「ごめんな、遅れてー、ここチャンスだぞ! 大樹! 一発かませー」
お父さんも声を張り上げて応援してくれている。ホームランを見せるために練習してきたことを思い出しバットのグリップを力いっぱい握った。
(よし、絶対に打つ。こいっ!)
〈プレイッ〉
カキーン――