「よいよい! お祖父ちゃんが出してやるからな。楽しみじゃ、大樹の練習の成果」
練習試合にも毎回見にくるけど夏の大会は特に楽しみにしているようで、この日の質問攻めは夕食時まで及んだ。
今日は練習試合と違い大会なので、僕は試合に出ることはないと思っていたけど、お祖父ちゃんが『ここで、大樹じゃ。これ、早く大樹をださんかー』と試合中ずっと顧問の先生に聞こえるように大声を出したので、九回ツーアウトの場面で、おなさけでバッターボックスに立つことができた。
結果はいつも通りの空振り三振で、今日はバットと一緒に僕も回って尻もちをついた。僕の三振にみんな慣れているせいか、試合が終わった後『三振はあかんぞ!』と口を酸っぱくしていたお祖父ちゃんでさえ何も言わなかった。なんだか気を遣われているようで少し寂しいような悔しいような気がした。
甲子園が終わると途端にお父さんとお祖父ちゃんは二人で話をしなくなる。「おう」とか「ああ」の最小限の言葉で会話する。
「面白いよねー、二人、フフフ」
お母さんはそれを見て笑いながら僕に話す。
僕は笑っているお母さんが大好きだ。笑った時にできる、えくぼを見ていると僕までつい笑ってしまう。
僕が三振した試合から二カ月が経過した。
部活が終わり家に帰ると、お祖父ちゃんが一人、腕を組んでのけぞるようにソファに座っていた。
「ただいま。あれ、お母さんたちは?」
「おう、おかえり。今日はお母さんたち帰ってこんから、ご飯は出前を頼んでおいたからな。お腹へったろう、揚げ物にしといたぞ」
「……何で?」
二人とも帰って来ないことに違和感があった。
「なんじゃ、揚げ物は嫌か?」
「揚げ物はいいから!」
僕はお母さんたちが帰って来ないことが気になってつい声を荒げてしまった。お祖父ちゃんもそれを見て察してくれた。
「ああ、うーん、そうなあ。お母さんがな、ちょっと体調を崩したんじゃ。そんで病院に行っとる。まあ、たいしたことはないだろ」
「え! どういうこと?」
「お祖父ちゃんもよく知らん、まあ、心配はいらん、帰ってきたら聞きい」
その日食べた揚げ物は味がしなかった。喉を通過するのもやっとで、食道に鉛でもつめられているようだった。
翌日、学校から帰るとお母さんたちが戻っていた。