良い気分で風呂からあがると、すでに食事のしたくが整っていた。黄金色に焼きあがたった餃子がテーブルのうえ、きれいに円をかき皿にのっていた。餃子と言えばビールだ。シュワッと炭酸湯につかった後は、プハーッと喉に泡立つ麦酒で決まりだ。
たいへんニンニクのきいた餃子だった。匂いを気にする花子は「お母さん、美味しいけど今度からはニンニク抜きにしない」と、ニンニクを嫌う。 自分は「いやいやニンニクのパンチが良いんだよ」と反駁する。すると清美が「そうねえ、うちは一応客商売なんだから、匂い気にして控えたほうがいいかもしれないわね。本場のやつはニンニクはいってないって言うし」なんて言うので、自分は「そんなもん夜寝る前にお口クチュクチュブクブクペッと、しっかりマウスウォッシュしときゃ大丈夫だよ。ニンニクのはいってない餃子なんて俺は認めないから」と、あくまで譲らず返した。だが実のところ本当は、それほどニンニクいりに拘ってはいない。酔って、乗りで言ってみたのだ。あしからず。それにしても今日のニンニクは強烈だ! 真面目な話、しっかりとマウスウォッシュせねば、と自分はあらためて胸につぶやいた。
夕飯を食べ終え、ひと休憩ついてから自分は、居間で鼻歌まじりにギターをつま弾いていた。
「ああ、さっぱりした」と、風呂からあがった花子が、冷蔵庫にはいった紙パックのジュースをコップに注ぎ飲む。清美はまだ夕飯の片づけをしている。ジュースのまだはいったコップを手に持って、花子が居間にきた。
「お父さん、ほんとに上手になったね」
「だろ。歌手になって、ヒットだして、ガッポガッポもただの戯れ言じゃないってわかっただろ」
「それはどうかなあ? でもほんと上手」
「まかしとけ! いまに花子もスターの娘だぞ。そう思って、こころの準備しときなよ」
自分はギターを弾きながら娘と会話した。娘はちょっとあきれた顔をしつつも、自分の腕前には感心しているようだ。
「とにかくいらん心配しないでいいからな。お父さんとお母さんのこと信用してさ」
「うん、そうする。お父さん早くスターになっていっぱいお金稼いでね」そう言って花子は、にこり微笑んだ。
窓の外、綺麗な月の下、秋の虫が鳴いている。外の空気にふれようと花子が窓を少し開けると、すぅと風が吹きぬけ、部屋の中に虫の音が響いた。
「虫がたくさん鳴いてるわね」と、片付けを終え居間にはいった清美が言った。
自分は虫の楽団に合わせるようギターをつま弾いた。うるわしきひとときだ。大丈夫さ。なんとかなる。明日もきっと忙しくなりそうな気がする。