不思議だなぁ、女って。高校生大学生のときは毎日のように一緒に過ごして、服と髪型を揃える双子みたいな格好するほど仲がよかったのに、仕事になったら同期やら先輩後輩やらと仕事の話をするようになって、結婚したり子供を生んだらまた全然違うコミニティが沸き上がってくる。自分の好き嫌いと関係なく、疎遠になったり新しくなったりする。その人間関係って一体なんなんだろう。
あんなに素直でかわいかった子が子育ての最中に急に、年齢や経済状況や独身かどうかで偉そうに何か言ってくるようになったりする。それも、しょうがないのかなぁ、女ならしょうがないことなのかなぁ。
溜まってきたお湯に左手を入れて、ちゃぷちゃぷと音を立てる。じんわりと手のひらがあったかくなってきて、こぽこぽと言うお湯の音が心地よい。
「ねー豊—、入浴剤入れてもいーいー?」
浴室の壁に反響して思っていたより自分の声が大きくなる。
「ねー、入浴剤—」
返事がないのでもう一度大きな声を出すと、なんでもいいよー、と眠そうな豊の声が聞こえた。
洗面所の棚からキャンバス地の入れ物を取り出し、ひとつひとつ個包装された入浴剤から今の気分に合うものを探す。
こだわりローズ、こだわりハッカ、こだわり生姜、と書かれていて、その中でも、ゆずハッカだったりレモンハッカだったり、ミニチュアローズだったりティーローズだったり、はちみつ生姜だったりゆず生姜だったり、いろんな匂いの中から、ミニチュアローズを選んだ。
ハッカは一人で入ってすっきりしたいとき、生姜はもう少し寒くなったり仕事で肩こりを感じたとき、ローズは少し綺麗になれるんじゃないかと勘違いしたいときに選ぶことが多い。ローズの匂いは女らしさを上げる、と何かの雑誌に書かれていたのを今でも憶えている。いくつになってもそういうのに弱い自分に少し苦笑いしながら入浴剤の包装を開けた。
世の中には数えきれないくらの入浴剤の種類があって、その分だけ使う人のその瞬間の気持ちがあるような気がする。
丸いタブレットから匂いが広がり、自然のバラに近い、しつこくなくて少し甘い匂いが、今の私を少し優しくしてくれるような気がした。
浴槽に波打つお湯の、少し高いところから入浴剤を落とすと、ちゃぽんっ、と音と数適の湯が飛んで、ピンク色の入浴剤がパパパパパパパと小さな気泡を勢いよくあげた。かすかに、シュワシュワシュワシュワと音が聞こえる。
気泡を見ながら、家族になりたいなぁとふと思う。時間がかかっても、もし叶わなくても、私はここにいたいんだなぁと分かる。
しょうがない、じゃなくて、家族になりたいと思える愛情を豊に持っていて、私もそう思われたい、と思った。
家族って人数でも形式でもなくて、そう思える愛情だよ、って前に由香に送ったメッセージは、私が自分に言いたいことなのかもしれない。
「入れそう?」
起き出してきて私を見下ろす豊に、うん、と返事をする。
「うん、なんかさ、いつか家族になったら入浴剤の好みでケンカしたりするのかな?」
豊はシャツを脱ぎながら、特に何も考えていないような口調で、するんじゃなーい、なんて言っている。
少し熱めのお湯が薄い綺麗なピンク色に染まり、私と豊が入るのを待っている。