私の目が泳いだ。母はそれを見逃さず、ニヤリと笑った。
「まったく。あの宅配はね、家族の繋がりなのよ」
「えっ?」
「夏は、お父さんがクーラーの掃除をしながら、ぼやくの。亜紗見も送ってやったスプレーでちゃんと掃除してるかなぁって」
「お父さんが?」
「そっ。淳平なんてもっと凄いわよ。朝、トイレから出てくると俺の屁もいい匂いに変わったぜぇ。姉貴の屁も大丈夫だなって、ズボン上げながら言うの」
母は笑い出した。
「なにそれ」
私も思わず噴き出した
「お母さんもね、虫を撃退してる時、虫嫌いの亜紗見もちゃんと使えているかしらっていつも思うのよ」
「みんな大袈裟だなぁ」
「みんな寂しいのよ」
「……」
「それに、うちと同じ物を使っていれば、亜紗見がホームシックになることもないだろうし、こうやって帰ってきた時も違和感がないと思ってね」
「……だから」
「ばれたのよ」母が微笑んだ。
「でっ、そっちは大丈夫?」母が私の目を見ながら言った。
「何が?」
私はとぼけた。そして、逃げるようにぶくぶくと湯船の中に潜った。
「ありがとう。ごめんなさい」
私は、湯船の中でぶくぶくと言った。
母は、私の言っていることがわかったのか「いいのよ」と笑った。
そして「亜紗見はどんな時も1人じゃないからね」と言った。
私は、湯船から顔が出せなくなった。
のぼせた私は、母に支えてもらいながら居間のテーブルの前に座った。母が冷えたタオルを私の頭に乗せ、隣に座る。
テーブルには、出前のお寿司が並んでいた。私の大好物だ。
「食べられるか?」父が心配そうに言った。
私は、頷いた。のぼせたおかげで目の腫れもだいぶ隠れている。
「いっただきー」
淳平がウニを一口で口の中に入れた。
「こらっ!ウニは亜紗見のだ!」
「えーーーっ、何それーーー。母さん、えこひいきはいけないって言ってよ」
淳平が不満顔で母を見た。
「お父さんのおごりなんだから、お母さんは何も言えないわ」
「なんだよ、それーーー」