駅員に肩を揺さぶられ、私は目が覚めた。
「すみません!」
私は、慌てて外に出た。やばいっ、寝過ごした!
えっ、ここは……。
なんと私は、実家の最寄り駅のホームに立っていた。
やっちまったぁーーーっ。
私は、その場で頭を抱えた。傷つきすぎた人間というものは、自然と自分が一番求めている場所に向かってしまうようだ。あぁ、なんてことだ。そりゃ、帰りたい。けど、こんな泣き腫らした目で帰れるわけがない。いや、そもそもあれだけの啖呵をきって出てきたのに帰れるわけがない。
よしっ、東京に戻ろう。ちょうど反対ホームに東京方面の電車が止まっている。
私は、反対ホームへと足を踏み出し……動かない。足が動かない。どうして?
試しに、改札口へと足を踏み出してみる。難なく足が動く。もう一度、反対ホームへ足を踏み出す。やはり動かない。どうやら、心と体は、改札口に向かうことで一致しているようだ。
なんて、メンタルの弱い私。
私は、しょうがなくとぼとぼと改札口へと歩き出した。
実家まで歩いて数分。その間に私は突然帰ってきた理由を考えなければならなかった。私は焦った。そして、焦れば焦るほど何も思いつかなかった。
まったくふがいない。
もう目の前に家の玄関が見える。私はそこで立ち止まった。
どうしよう。そもそも長い間、音信不通であった私がこんな時だけ帰るなんて……やっぱ駄目だ。
私は、抵抗する体を無理矢理捻り、駅の方へ向けた。
「亜紗見?」
うん?お父さん?
私は振り返った。やはり、父が立っている。
「お帰り。早く中に入りなさい」
久しぶりに見た父の笑顔。
私は、ぎこちなく「う、うん」と返事をした。父は、私を先に入らせようと、ドアを開け、手で止めている。私は小走りに父の腕の下をくぐり、中に入った。その時、父が缶ビールを背に隠しているのがちらりと見えた。
サンダルを脱ぎ捨て、玄関を上がって行く父を見ながら、私は玄関を上がれずにいた。
「お父さん!ビールは風呂上りじゃなくて、夕食の時でしょ!」
「飲んでないよ。ほら」
「まったく。淳平!お風呂は?」
「追い炊きした?」
「まったく」
母が出てきた。玄関に突っ立っている私と目が合う。
私は、固まった。しかし、母は違った。