わかっている事をズバリと言い当てられ、オレは項垂れるしかなかった。
開放感に浸りながらプルタブを開けた缶ビールは、中身を半分残したまま既にぬるくなっていた。
「ビール取ってこようか?」
手の中の缶を持て余しながら項垂れるオレは、14歳のまだやっと声変わりしたばかりの息子の声に顔を上げた。
オレは何だか泣きそうになっていた。
山野には悪いが男同士の話しが出来る息子が、今この時にいてよかったと心から思う。
「お父さんは毎日会社に行ってるからわからないかもしれないけど、母さん毎日結構一生懸命生きてるよ!健と沙耶の面倒見て、パートにも行って。時々機嫌悪い時もあるけど大抵はケラケラ笑ってるよ。そうゆう母さんの毎日をお父さんは知らないでしょ?」
「まぁ・・知らないなぁ」
息子に言い訳したくはないので素直な振りをして頷くが、それを言うなら妻だってオレの一生懸命生きている毎日を知らないはずだ。
「こないだ母さんが美容院行ったのいつだか知ってる?」
「えっ、うーんと、ひと月前ぐらいか?」
「つい一週間前だよ」
知らないと素直に言えなかった自分を恥じて、亮が持って来てくれた冷たいビールを煽った。
「もっと母さんの毎日に興味を示してあげてよ」
オレは、絶句したい気持ちになった。
妻の日々の生活になどまったく興味がなかったのだ。
「母さん、お父さんが自分を見てくれないからきっと寂しいんだと思う。」
オレの母もそうだった。あの頃のオレは気づいていた。意識していたつもりはなかったけど。
今、目の前にいる息子が言った事は、小さい頃の自分が父親に言いたかった事だ。
必要以上に喋らない父との時間は、母にとって息苦しく寂しいものだった。寂しそうにしている母を何度も見た。だけどその気持ちを、母の様子を父に話す事など出来なかった。
知らず知らずの内に自分が父と同じように妻に寂しい思いをさせても気づかない大人になっていたのだ。
翌朝、部活に行く亮に(今日お母さんを迎えに行く)と宣言した。
亮はクシャッと顔をほころばせて出かけて行った。
妻の実家までは車で一時間程だ。音楽を聞いて気持ちをリラックスさせようとしたが、妻の顔を思い浮かべると渋滞もなくスムーズに進む事に反発するようにスピードを落としてゆっくり走ってしまう。
「お父さ~ん!」