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『息子の見解』黒藪千代


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「いっつもそうだよね!私が言った事何にも聞いてないんだよね!自分の事ばっかり!そうやって何処かに出かければそれで父親の役目を果たしたと思えるんでしょ!自己満足したいだけじゃない!家族の今の状況なんて何にも見てないのよ!あぁ、もう腹立つわーっ!」
 その翌日、妻は部活がある亮を残し下二人の子供達と実家へ行ってしまった。

 あの時は、理由がはっきりとわかっていた。だから何度も謝って、土曜日には亮の合宿へも顔を出した。それでも春休みが終わる前日まで妻は帰って来なかった。
 結局子供達の学校と幼稚園が始まり、いつもの日常が戻ってくるとお互いにその事に触れないまま日々を過ごして来た。

 今は、夏休みが始まってまだ一週間程しか過ぎていない。前回の事を思えばこのまま夏休みが終わる前日まで帰って来ないつもりだろうか?
 今回は出て行った理由すら皆目見当がつかないから、闇雲に謝ってしまうのは得策とは思えない。それに何故オレだけが謝るんだと理不尽さも感じている。しかし、このままでいい訳がない。
 目の前に座って、美味そうにコンビニ弁当を食べる息子に助けを求めるしかないのだろうか?
「なぁ亮、お母さん何か言ってたか?」
「冷蔵庫に一杯おかず作ってあるって、カレーとか」
「そうか、」
「あと、僕に一万円くれた。食費と部活の飲み物代だって」
「一万もか?」
「うん、あとね、」
「何だ?」
「お父さんのご飯は用意しなくていいって。冷蔵庫のおかずも亮が食べなさいって言ってた。あれは相当怒ってるね。ヤバイよ。お父さん」
 言葉がなかった。中2の息子が言った(ヤバイよ)が胸に突き刺さる。
「でっ、何で怒ってるかわかってるの?」
 冷静に、しかも直球で聞いてくる息子の顔を見てオレは真剣に考えた。

 最近目立って何かを言い争った覚えはない。そもそも会話らしい会話をしていないのだから。こないだ沙耶をベッドに連れていく云々で怒ってはいたけど翌朝には特に尾を引いていた様子はなかったはずだ。
「お父さんさぁ、母さんと最近全然喋ってないでしょ。」
「あ、あぁ」
 一番痛い所に、塩を刷り込まれた気分だ。
「特に話す事もないしなぁ。それに何か話しかけるといっつもお母さん怒ってるだろ!」
「例えば最近どんな事お母さんに話しかけたの?」
「うーん、ついこないだは沙耶がここで寝てたから(ベッドに連れていこうか?)って言ったんだけど、何でだか怒って(いい)って言われた!」
「あとは?」
 あの時のオレの不満な気持ちに、少しでも反応して同調してくれるかと期待したが、亮はサラッと聞き流した。
「あー、帰りが遅い時の朝に(今日はご飯いらない)とか、あっそうそう、日曜日にテレビの録画撮っといてって言ったかな」
 妻とどんな会話をしたか、思い出そうとしてあまりに少ない事に改めて気づかされた。
「それ全部、会話じゃないからね」

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