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『息子の見解』黒藪千代


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「嫁さんや子供達と何となく出来てしまった隙間に悩んでいるのはお前だけじゃないぞ、だから自信持て!」
(自信?何に持つんだ?)と思ったけど、励まされたような、慰められたような気持ちになってとにかく大きく頷いた。
「女は割れ物注意の陶器だと思え!些細な事で壊れそうなくらい怒ったかと思うと、コレまた些細な事でキラキラ輝くように喜んだりするんだよ!なっ、わかるか?!」
「あっ、あぁ。」
 現実的なアドバイスを求めていたオレの気持ちとは裏腹に、山野は自分の状況を愚痴り始め(女は厄介だ)を繰り返し、気が付けば呂律が回らないくらいに酔っ払ってしまった。

 山野とは反対方向の電車に乗り込んだオレは、何だか物凄くほっとしていた。山野の愚痴は、自分が普段妻に対して思っている事と同じだった。
 自分で口にすることが出来なかった妻の悪口を代わりに言ってくれた。
 世の中には今の自分のような状況に置かれている父親は沢山いる。
 そう思えたら、それ程深刻に悩むような事でもない。皆がある程度家族とギクシャクしていても、その大多数が離婚している訳ではない。
 もう少し年を取って時間が過ぎれば、子供達が成長すれば、また昔のように穏やかな会話が交わせるようになれるのかもしれないと思えた。

 それから数日、少しばかり安堵した気持ちでいても、妻との関係修復に向けて何かしらの行動を起こす事が必要だと感じていたオレは決死の覚悟で妻に提案を持ちかけた。
「春休みだから、久しぶりに家族で何処かに出かけないか?次の土曜日あたりにどうだ。」
 妻がなるべく穏やかな顔をしている時を狙った。タイミングを外さないように最大の注意を払って言い終えた。自分に拍手したい程の完璧な声かけだった。夫として、父親としての威厳を多少でも保ちたくて、会社での山野のように自信ありげに少々胸を張って言えた事も自分的には満足だった。
 言えた事にほっとしながら、囁かなドヤ顔を隠して缶ビールを煽った。
「はっ?何言ってんの!」
 予想外の妻の言葉が聞こえた。
 缶を口に付けたまま恐る恐る横目で妻を見ると、さっきまでの穏やかな表情は微塵もなく、いつものキッとした目でオレを睨んでいる。
「土曜日は亮の部活が学校で合宿するって言ったよね!私も食事の世話とか他のお母さん達とお手伝いに行くって言ったじゃないっ!」
(あっ!)最悪だ。
(妻と話しをする)その事だけに意識を集中させすぎて子供達の予定など考えていなかった。
「おぉ、そうだった。ごめん。じゃぁその次の休みにでも・・」
 多少でも張ってしまった(男の威厳)が素直に引き下がる気持ちを邪魔した。オレはできる限り平静を装って食い下がった。

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