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『息子の見解』黒藪千代


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 どんなに気まずい状況でもオレは挨拶にこだわりたい。だから今日も重たい気持ちを隠してリビングのドアを開けた。
 電気は付いているのに人の気配がない。
(えっ?)咄嗟に色んな事が頭の中に浮かんだ。
(玄関に鍵が掛かっていたから、非常事態で飛び出した訳ではない)
(家の中に特に変わった様子もない)
(電気を付けたまま、子供達を連れて近くのスーパーまで買い物に行った)
 最後に思いついた事に自分の気持ちが落ち着き、頭の中の不安を払い除けた。
 いつも子供達に占領されているテレビが今日は息を潜めたように静かに鎮座している。テレビのスイッチを入れると、途端に家の中がそれらしく家族の暮らす空間になる。冷蔵庫から缶ビールを取出した。
 今なら好きなテレビが見れる!ちょっとした開放感を味わって缶ビールのプルタブを引き上げながらソファに腰を下ろした。
 窮屈に首を絞めるネクタイを外してソファの背もたれに投げ捨てる。
 一日分の脂をたっぷり吸った靴下を絨毯の上で裏返しに脱ぎ捨てる。
 妻がいる時には絶対にやってはいけない事だ。
 久しぶりの開放感を嬉しく感じている自分にほんの少し罪悪感が沸いたけど、おそらくすぐに妻の率いる家族はガヤガヤと帰ってくるだろう。それまでの(ほんの少しの開放感)ぐらいと、すぐさま開き直った。
 ガチャン。玄関のドアが開く音がすると程なくしてリビングのドアが開いた。顔を覗かせたのは長男の亮だった。
「おぉ、おかえり」
 ついさっきプルタブを開けた缶ビールはまだ一口しか飲んでいない。
(もう帰ってきたか・・・)言葉にしてはいけない気持ちを喉の奥に押し戻すようにゴクリとビールを飲み込んだ。
「うん、お父さんもおかえり」
 リビングに顔を見せた亮の手にはコンビニの袋がぶら下がっている。
 思った通り家族は買い物に出かけていたんだと、当たり前の事ながらにほっとする。
「あっ、お父さんのご飯買ってきてないよ。」
「えっ、」
 亮の後ろに視線を向けて妻と他の子供達の気配を探ったけれどリビングから玄関に続く先は物音がしない。
 帰宅した時に感じた幾つもの不安の一つが、思いがけず蘇って困惑する。
 亮はコンビニの袋から中身を取出しながらオレの目の前に座ると、何故か無言でオレを見つめた。
「なっ、なっ、何だ?」
 動揺が隠せず声が詰まるオレとは対照的に、中学2年の息子が落ち着いた大人に見えた。
(お母さんは?)と聞くまでもなく亮が一人弁当を買って来た事で事態は理解出来たが、何のタイミングで妻が実家に帰ったのか理解して飲み込む事が出来なかった。

 
 前にもあった。つい数ヶ月前だ。
 今と同じように悩んでいた。妻との関係を少しでも修復したいと職場の同期で家族構成も良く似た山野に相談しようと考えた。

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