興奮して大きかった娘の声が段々小さくなりすすり泣く音が加わっていく。
「泣くなよ、ごめん」
「お父さん、ひどいよ。死んでほしいわけないでしょ。バカじゃないの。家族は二人だけなんだよ。なのにそんなこと言うなんて」
娘は嗚咽しながら泣き出した。
「そうだよな、いつか死ぬんだよな。親の俺より娘のほうがよっぽどしっかりしてるな」
「ほんとだよ。ひどいよ。挙句さ、結婚とか子供のことだって私は気にしてるのにほんとひどいよ」
嗚咽が止まらない娘の嗚咽を止めたのはこの音だった。
「ぐぅぅ」
娘の腹が鳴る大きな音が部屋中に響いた。
「こんなに泣かせるからお腹空いちゃったよ。お父さんのせいだよ」
娘は泣きながら笑っていた。子供の頃と変わらないあどけない娘がそこにはいた。
「俺も腹減ったな。出前でも取ろうか」
「あの中華屋さんの天津麵と餃子と炒飯はどう?」
そう言った娘の顔は笑顔に変わっていた。
天津麵と餃子と炒飯を娘と食べるのは二十年ぶりくらいだろう。
「この旨さは変わらないな」
「うん。でも変わったこともあるよ」
娘は自分の缶ビールを指さす。以前は娘の飲み物はまだジュースだった。
「変わることと変わらないことが人生あるんだよな。お前が言う通り、俺もいつか死ぬんだよな。目を背けてた。ごめんな」
「私だって嫌だから目を背けたかった。でもちゃんと話さなくちゃと思って。でも言い出しにくくて。だからたい焼きなんか買ってきたんだよ」
テーブルの上のたい焼きの箱を見て娘は笑った。
「エンディングノート?書いてみるから相談のってくれよ。頼んだぞ」
「もちろん」
「いつ死ぬかわからんから言いたいときに言っておく」
「え?何」
娘は首を傾げ俺はビールを飲み干した。
「いくつになっても出会いはあるぞ。俺を喜ばせるためでなく、自分のためにいい出会いを諦めるなよ」
「お父さんがそんなにきっぱり何かいうなんて始めてだよね。なんか出会いがありそうな気がしてきた」
「そうだ、人生楽しめ楽しめ。それからな、言いにくいことちゃんと言ってくれてありがとな」