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『待つ時間』宮原はる


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 何とも歯切れが悪い会話だ。いつもの母親の調子ならここでスマホを取り出してどのカメラが欲しいの?言ってごらん?と迫ってくるはずだ。(ちなみにどのカメラが欲しいかはこれまでに2回ほど聞かれたことがある)。カメラに関しては別にそこまでこだわりは無い。ちゃんとしたのがあったらいいな、と思う時もあるけれど。今は部のカメラを借りて撮ることが出来るし、『撮る』という行為だけで今は満足している。それをきちんと言葉にしない自分も悪いのかもしれないけど。
『母さん』
「ん?」
『俺は今、十分幸せだよ』
 箸を一旦ごはん茶碗の上に置いて、正面を真っ直ぐ見据える。
『前にも言ったけど、家事も嫌いじゃないし、やり始めたら楽しいって思ってる。友達もそれなりにいるし、たまに遊ぶことだってできている。母さんは高校生らしくもっと遊びなさいって言うけど、俺、多分周りの奴らより精神年齢若干高いと思う。…ほら、よく通信簿に書かれたじゃん。大人びてるところがあります、って。自分でも何となくそう思う。自分で何をして幸せか、充実した気持ちになるのかは自分で分かってる。そして今それをしたいようにできている。だから、そんな心配しなくていいよ』
「陽…でも、」
『でも、なんてないよ。自分で何を考えて今口にしているのか、俺は分かっている。それは全部嘘偽りない、俺の本心だよ。だから、母さんが日々接する俺を信じて』
 いつの間にか静かに涙を目尻から零していた。歳をとると涙もろくなるって言うけれど、目の前のこの人は元から泣き虫なところがあると思う。最近少し分かってきたのは、その後ろにたくさん背負っているものがあるということ。それを子供の自分はまだ、背負うことが出来ない。いつの間にか追い越した背。小さく感じる目の前の体で、自分でも重いと感じるようなものを一人でこの人は背負っている。そう考えると、家事なんて容易すぎる。
「ありがとう」
『どういたしまして…?ていうか、もう冷めちゃうから早く食べよう』
 先に目を逸らして置いていた箸を右手で取り、湯気などとっくに出ていないつくねを一つ頬張る。その時の母親が自分に向けた眼差しを、自分は知らない。
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