「…あ、いや…何か、関心しちゃって」
『何に?』
「日に日に料理上手くなっていくよなぁって思って」
『食べてから言ってください。いただきます』
「…ふふ、そうね。いただきます」
お味噌汁茶碗に手をつける。テレビはついていない。もっと幼かった時は寂しいときはテレビ見てていいのよ、と言われたこともあったが、結局あまり見なかったし、それが習慣づいて今も見ていない。テレビを見ていると何かを逃してしまいそうで、何となくそう思っている自分がいた。
「美味しい~陽は絶対いい旦那さんになるよ」
『料理が作れるイコールいい旦那さんなの?』
「女も何だかんだで単純だからそういうものよきっと」
『へぇー』
「彼女いないの?」
『言わない』
「えぇー、教えてくれたっていいじゃん。好きな子は?」
『言わない』
「ケチ」
『ケチで結構』
淡々とした態度に恐らくこれ以上何言っても口を割らないだろうと思ったのか、母親は何だ残念、とでも言うように肩をすくめて切り干し大根を食べる。
「…部活はどうなの?」
『楽しいよ』
「陽の撮った写真見てみたいな」
『文化祭で展示やるみたいだけど』
「テーマとかあるの?」
『うん』
「何?」
『〈幸せ〉だって』
「…何を撮るのか決めたの?」
『候補はあるかも。でも教えないからね。展示を見に来れば分かるから』
「なんとしてでも仕事休むね」
『そこまでしなくていいよ。仕事優先して』
あ、今の言い方はまずかったかもしれない。そんなこと言わないの、それか、もっと甘えていいんだからね、のお決まりの文句が来ると身構えたが、実際は違って拍子抜けた。
「カメラは部で借りてるの?」
『え?あ、うん』
「みんなは自分のカメラを持っているの?」
『まぁ、うん。俺みたいに持ってないやつもいるけど』
「そう…」