夕食後、スイカを切り分けながら、ちょっとトゲトゲした口調でさっちゃんは呟いた。妬いているさっちゃんも愛おしいと思った。
「ふふ。でも、私がこうしてビールを飲みながら二人の時間を過ごしているのは、さっちゃんなんだよ。」
彼はこっちを向いて、ふにゃっと笑った。
「そうだね。僕たちはこれから、今と未来を共有していくんだから…。」
「ん、それ誰の受け売り?」
「…マサフミさんです。あなたのおじいさまです。」
「素直でよろしい。さっちゃんに、きざな台詞は似合わないよ。」
おじいちゃんは時々、おばあちゃんとの思い出話を私に語ってくれた。仕事を優先して、あまり家族の時間を持たなかったこと、そして苦労をかけたおばあちゃんが先に逝ってしまったことをずっと後悔していた。その話をする度に「夫婦とは今と未来を共有していくものだから」と私に教えてくれた。きっと、さっちゃんにも同じ話をしていたのだろう。さっちゃんのこと、とても可愛がっていたから。
「わ、やよちゃん!このスイカ、すごく甘いよ。」
「本当だ、甘くて美味しいね。おじいちゃんにも一切れあげよっかな。」
「…マサフミさん、スイカ嫌いじゃなかったっけ?」
「そうよー。でも、死んでからぐらいしか克服してくれないでしょ。おじいちゃん頑固だから。」
「いや…。さすがに仏壇に供えるのは好物にしようよ。やよちゃん厳し過ぎ…。」
「そうかしら?じゃあ、今のうちにさっちゃんの嫌いなもの聞いておこうかな。何お供えするか覚えておかなくちゃ。」
「…だから、私達最期まで一緒に居ましょうね。」とは言わなかったけれど。この想いはあなたに伝わったかしら。
十月二十三日 雨
長い一日が終わった。今日はおじいちゃんの三回忌だった。
「やよちゃん、お疲れ様。結局ずっと雨だったね。」
「だね。おじいちゃん、雨男だったんだ。だからかな。一周忌も雨だったし。」
雨でびしょ濡れの喪服から部屋着に着替え、私たちは二階のリビングで温かいお茶を飲みながら、冷えた身体を温めた。
「マサフミさん、雨男なんだ。でも、お葬式の時は晴れてたね。綺麗な晴天。『あー、マサフミさんあの空に行ったんだ』って思ったから、よく覚えてる。」
「あ、さっちゃんは『死んだら空に行く』派なんだ。」
「何それ、派閥あるんだ。じゃあ、やよちゃんは?仏壇とかお墓にいる派?」