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『画期的な発明』拓斗


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 消臭スプレーはほんのりと清涼感があるようなタイプで、別段これまで使ったことのあるものとの違いはなかったような気がするけれど、家を出る前よりは落ち着きを取り戻していた。
 他の受験生も使ってるんだろうなと周りの人を見ながら思う。冷静に見ていると当たり前だが色々な雰囲気の人がいる。ぐっすり寝ている人、本を読んでいる人、スマホを見ている人、それほど表情があるわけではないけれどなんかいい感じの人も数名はいる。何かいいことがあったのか、心に余裕があるのか、よい性格なのか理由はわからないけれど、多分残念な臭いは出てそうにないなと感じる。
 それにしても人間て残念な臭いも出すとは驚きだ。まあ確かに不幸そうな人はいい香りしそうにないもんな。単純に考えてもそれくらいはわかる。
 じゃあ、三年前の意気込んだ受験とは違って私もちょっとハッピーそうな雰囲気にしてみるか、となんとなく思った。普段わりとテンション低めで無口な方な私。そういう私じゃない私。そんな自分が笑えるけれど、そう思えたことがもう消臭スプレーの魔法にかかっていたのかもしれない。維持できたかどうかわからないが試験はあっという間に終わっていった。

 帰りの電車の中は、すべてを出し切った感じでぼーっとしていた。
 お母さんに何か買って帰ろうかな。そんなことを考えていると、隣の座席の親子の会話が気になった。
 お母さんが女の子にスプレーをかけながら言う。
「次の駅で降りてね。気を付けていってらっしゃい。これでもう安心ね」
「うん!」
 と女の子も笑顔だ。私が横目でスプレーを覗き込むと、
「なにかと心配の多い世の中。けれども我が子にいつでもくっついているわけにはいかないことも。通学、習い事、お子さま一人でも安心。このスプレーは、愛するお子さまを心配するお母さまの心配事から守ってくれるバリアのようなものです」
 と書いてある。
 え、ええっ そんなものまで出来てたのー?? 私、受験勉強ばかりし過ぎて周りに目がいってなかったのかな?
 改めて覗き込んだ私は注意書きに目が留まった。 
「注意:24時間は効きません(特に深夜)ので、夜遅くまでの外出は控えて早めの帰宅後は、ご家族でハグを」
 へーーーーー。注意書きにまた驚く。
 そうか。進化にばかり頼らないで、大事なのは家庭というのを忘れずに、か。製薬会社も大変ね。諸刃の剣にならないように注意喚起が大事よね。
 ここまでくると感心だった。私は大きく息を吐いて何気なく窓から外を見た。
 今日の空は珍しい色だった。ごくたまに見られる美しい色の空で、梅重(うめがさね)色という色は幼い頃おじいちゃんに教えてもらった。

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