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『ぼくの妹』鑑佑樹


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「うん……」
 もう一度、小さな声で「ごめんなさい」と言う。ママは、司の頭をそっと撫でてくれた。

「おっ、たんぽぽ! 良かったな。お前、これで快適に暮らせるな」
 パパはサークルに掛けられている蚊よけネットを見ながら、そう言った。司は嬉しいような、気恥ずかしいような気持ちになる。この間、ワクチンの注射で動物病院に行ったときに、もうフィラリアの薬はもらっていたと、ママから聞いたから。
 たんぽぽの首には、真新しい蚊よけ首輪がつけられていた。鮮やかな空色で真ん中に白い線が入っているものだ。普段の首輪は赤だから、気分を変えて爽やかな色を選んだ。パパは説明文を読みながら、上機嫌にたんぽぽに話しかけている。
「蚊だけじゃなくって、ノミまで効くんだってよ。お兄ちゃん、頑張ってくれたもんなぁ」
 司は、足をもじもじさせながら、パパの言葉を黙って聞いている。
「ねぇ。そろそろ、散歩の時間じゃない?」
 食事の準備を整えたママが、濡れた手を拭きながら台所から出て来た。食欲を誘う匂いが、冷房の風にのって、司やパパの鼻孔をくすぐった。
「今日はカレーかぁ」
「あん! あん! あん!」
 パパの声の上から、たんぽぽの声がかぶさった。
 司はみんなで散歩に行けることが嬉しくて、たんぽぽを抱き上げた。

 晩御飯の前に、家族四人で散歩に出かける。陽光が、昼間の力強さまではいかないものの、穏やかな日差しで降り注いでいる。それでもうっすらと、ほのかな夕暮れ色が滲み出していた。司は、たんぽぽのリードを慣れた手つきで持つと、はにかんだ笑顔を両親に向ける。
「今度、家に西野くんが遊びに来るけど、いい?」
「もちろん。パパとママがいない時でも、連れて来ていいからね」
 ママもパパも、安心した様子でにっこりと微笑んだ。
 たんぽぽと司は、夕暮れの公園を一緒に駆けまわった。夏休みも、もうじき終わる。楽しい思い出と小さな冒険。司はこの夏、家族と一緒にいられる幸せをかみしめていた。

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