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『八重ちゃんの小さな家』末永政和


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 その夜、八重ちゃんと旦那様は縁側に並んで座って、お月様を見ながら西瓜を食べていた。旦那様が種をプッと飛ばす。
「お行儀が悪いですよ」と八重ちゃんが優しくたしなめる。
「かまうものか、西瓜の種だって大地に帰りたがっているだろうさ」
 うまいことを言ったつもりで得意げな顔をしているが、たいしたことはない。八重ちゃんの隣では、清蔵さんがふわあと欠伸をしている。この時間に清蔵さんが起きているのは珍しい。夜になるといつも、裏の廊下に引っ込んでしまうのに。清蔵さんの視線の先、庭の向こうには何やら光るものがある。3つ4つ、5つ6つ。蛍だろうか。
 旦那様がまたプッと種を飛ばす。おお、よく飛んだと喜んでいる。種が飛んでいったのがちょうどさっきの光のあったあたりで、がさがさ音をたてて光は消えてなくなった。
 興が乗ったのか、旦那様は立て続けに種を飛ばす。八重ちゃんは呆れた顔して見ている。いちおう旦那様なりに気を使っているのか、西瓜の種が飛んでいくのは八重ちゃんが大切に面倒みている花壇の反対側だ。

 さてその晩、日付が変わって間もなくのことである。ただならぬ物音に旦那様は目を覚ました。この季節、2人が寝室代わりに使っているのは離れの座敷だ。隣では八重ちゃんがスヤスヤ眠っている。起こしてしまうのはかわいそうだと、旦那様はそっと布団を抜け出した。
 蚊帳越しに庭を見ると、何やら黒い影が身を震わせている。よく見れば清蔵さんである。毛を逆立ててうなり声をあげている。よくよく見れば、庭の影になっているところに3匹の野良猫がいる。
「なんだお前、発情期か」
 デリカシーのないことを旦那様が言うが、清蔵さんは聞く耳を持たない。緊迫した空気である。野良猫のうちの一匹が足を前に踏み出そうとすると、途端に清蔵さんが飛びかかる素振りを見せる。一触即発とはこのことである。
 ようやく旦那様は合点がいった。清蔵さんは八重ちゃんの花壇を守ろうとしているのである。まだ芽が出たばかりなのだ、野良猫に踏み荒らされてはかなわない。
 そうと分かればうかうかしてはいられない。旦那様はそばにあったホウキを片手に、おいクソ猫、助太刀するぞと庭に勢いよく飛び込んだ。
 それが引き金になったものか、清蔵さんと野良猫たちはくんずほぐれつの大立ち回りを演じ始めた。旦那様の付け入る隙などあるはずもない。俺も混ぜろとホウキを振り回すが、そもそも腰が引けているので当たるはずもない。それでも威勢だけはいいので、やんややんやと大騒ぎだ。おそらく猫たちもうんざりしている。
 そこだ! 行け! 旦那様が調子に乗ってホウキを振り上げたそのとき、八重ちゃんがむくりと起き上がった。寝ぼけ眼で旦那様の姿を見て、途端に顔が青くなった。
「おお、起こしてしまったか。バカ猫どもは私が退治してやるぞ」

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