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『八重ちゃんの小さな家』末永政和


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 こうして、私のところにやってきた旦那様と八重ちゃんの暮らしがはじまった。清蔵さんは2人が来たからといって特に気にするでもなく、相変わらず我がもの顔でのし歩いている。プライドが高くて意地悪な性格をしているから、なかなか八重ちゃんたちになつこうとはしない。それでも八重ちゃんが根気よく相手をしようとしているのに対して、旦那様はそうそうに飽きてしまって、「そんなつまらん猫は追い出してしまえ」とぶつくさ文句を言っている。きっと夜になったら、清蔵さんに体のどこかを引っ掻かれるに違いない。清蔵さんは長く生きているだけあって人間の言葉をちゃんと理解しているし、言われっぱなしでは済まさない性格なのだ。

 
2

 毎朝目覚めると、八重ちゃんは庭に植えた種が芽を出していないかと真っ先に見に行く。夏休みの子どものようだ。早起きの清蔵さんもしっぽをふりふりついてくる。すずめがチチと鳴いている。清蔵さんがここぞとばかりに飛びかかる。すずめは慌てて飛び立って、清蔵さんが着地した先はちょうど種を植えた場所だ。
「ちょっとダメですよ清蔵さん! どいてくださいってば」
 八重ちゃんは真っ赤な顔をして清蔵さんを追い出そうとする。土に空気を入れてあげたんですよ、こうして刺激してあげたほうがよく育つんですよと、清蔵さんはふんぞり返っている。
 やがて種はかわいらしい芽を出して、八重ちゃんを喜ばせた。さすがに絵日記はつけないが、やれあっちの芽が伸びた、葉っぱが増えた、あそこだけ日陰でかわいそうだから植え替えてあげようかしらなどと一人で騒いでいる。旦那様はそんな八重ちゃんを細い目で見つめながら、今日もへたな俳句をひねっている。
 実に平和な毎日である。戦争のせいで前に住んでいた家族がいなくなってしまって、私はずっと寂しい思いをしていた。八重ちゃんと旦那様が、ずっと平和に暮らしてくれたらいいと私は思っていた。しかしそうは問屋がおろさないのである。

 ある日の午後、お隣のお婆さんが西瓜をお裾分けしてくれた。小振りだが実がしまっていて、いかにも美味しそうだ。昨日の晩、旦那様が「西瓜が食べたい」とだだをこねていたばかりなのでタイミングもこの上ない。
 もらった西瓜を盥の水につけて冷やしながら、「ねえ清蔵さん。この西瓜、私と旦那様の二人で食べるのにちょうどいい大きさだと思いませんか」と八重ちゃんは幸せそうだ。
 私の分はないのかいと、清蔵さんが八重ちゃんの膝を突っついている。駄目ですよ、猫が西瓜なんか食べたら。意外に冷たい八重ちゃんである。
「亡くなった私のお母さんが、西瓜が大好きだったんです。旦那様はいつもおみやげに西瓜を持ってきてくれて、お母さんの話相手をしてくださって。ああ見えて、優しい人なんですよ」
 そんなことがあるものかいと、清蔵さんはあきれた顔をしている。八重ちゃんが昔のことを話すのを、私はこのときはじめて耳にした。昔の旦那様は、面倒見のいい人だったのだろうか。

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