いつの間にか麻衣子が帰ってきて、玄関に立ちすくんだままの私を不思議そうに見ていた。
「どうしたの? また喧嘩でもしたの?」
「そうじゃない。仁志に花火を買って来るように頼んだんだ」
「花火って、まだ三月だよ。桜だって咲いてないのに、誰が花火なんてするの?」
私がすると言ったなら、麻衣子は呆れるだろう。さらに子供ができたと言ったなら、どんな顔をするだろう。
「みんなでやるぞ」と私は言った。
そうして麻衣子に見つからないようにこっそりと指を折って人数を数える。
来年の春には、賑やかになっていることだろう。来年の夏には、みんなで花火ができるだろうか。
そんなことを考えながら、両手いっぱいに花火を抱えて戻ってくるはずの仁志を待った。