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『砂浜に革靴』青木なこ


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 私は母を真ん中にせず、少しだけカメラをずらした。夫が私の隣に戻ってくる。ゆっくりと帽子をとりながら、小さな声で私に呟く。
「元気出たみたいだね。ほらね。」
 私は返事の代わりにシャッターをきった。母の向こう側の砂浜に、私たち三人の足跡が残っている。一番大きな足跡は恐らく夫の物だが、何度か引きずったような跡がある。さぞ歩きにくかっただろう。夫婦とか家族という関係には不思議に思うことが多いが、この人と一緒にいられてよかったな、と心の底から思った。

 
 娘からメールが届いた。母がエメラルドブルーの海をバックに、頭に花飾りなどをつけて嬉しそうに笑っている写真だ。Tシャツには「I LOVE Guam」と書いてある。私は思わず笑いながら写真を保存した。仕事中の夫に送ってやろう。あれから母はいろいろなことを始めたようだ。近所のカラオケ教室に入りコンサートにでたり、東京へ歌舞伎を見に行ったり、近所の人と温泉旅行に行ったりしているという。グアムもどうしても諦めきれなかったようで、移住じゃなきゃいいんでしょう旅行に行くわよ、と孫を案内役に引っ張りだして何のためらいもなく飛行機に乗っていった。娘と母、のんびり者同士なので、とにかく帰りの飛行機に乗り遅れないようにと口を酸っぱくして言った。そんな私を夫が大丈夫大丈夫と宥める。私は全然大丈夫じゃないと思いながら、楽しみだねえと言い合う母と娘を見送ったのだった。掃除機を片手に、小さな声で写真の中のうかれた母に向かって言う。
「しっかりしろ。」
 父は、たぶん、少しだけ笑う。

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