「虫除けスプレーとか、やだぁ~!!絶対誰も持ってきてないって!ダサいよー!」
「でも、林間学校って山の中とか行ったりするでしょ?虫にかまれたらどうするの」
「えー…。じゃあ!虫除けは持っていってもいいけど、リングとかの買ってよ!あれ可愛いし、リングならつけてもいいかなー」
「絶対スプレーの方が効果あるわよ」
「効果あっても絶対やだ。ほら、キリちゃんのお母さんも虫除けリング効果あるって言ってたじゃん!せっかくつけるんなら可愛いのがいいー!」
「だめ。絶対スプレー。それがだめなら、虫除けシート」
「どっちも嫌ー!!可愛くない!林間学校って男子も行くんだよ?!女子みんな絶対髪ピンとか絆創膏とか可愛くしてくるし!虫除けも絶対可愛いの準備してくるよ!?それにスプレーとか重いから絶対いや!」
「じゃあ、シートでいいじゃない。マイコが虫に刺されない方がお母さんは大事!」
冷蔵庫に野菜をしまいながら返事を返すお母さんは、絶対私に譲ってくれそうになかった。私じゃお母さんの意見を変えられそうになくてイライラする。
「もう知らない!お母さんが勝手にしおり見れば?!私が女子の中で浮いたらお母さんのせいだからね!!」
「じゃあ、机の上にしおりを出しといてね」
怒って部屋を出て行こうとしている私に、お母さんがいつもと同じしゃべり方で言ってくる。私が怒ってるのなんてお母さんにとってはどうでもいいみたいで、またイライラした。お母さんにとっては、私の学校での立場とかどうでもいいみたいで嫌になる。
「ねぇ、明日なんだけど…、マイコの林間学校の買い物も一緒にしちゃっていいかな?」
「そっか、今年は林間学校に行くのか…。ついこの間まで幼稚園生だったのになぁ…」
感慨深そうに呟く私の旦那さんは、仕事のせいで起きている間の子ども達とあまり会えていないせいか、少しだけ他人事のようだった。
「マイコはもう高学年だから。…それで、明日マイコの買い物も一緒にいいかな?メイコも連れていきたいから、貴方も一緒に来てくれると助かるんだけど…」
「別にいいけど。何買うの?」
疲れてると断るのかと思ったのに私の旦那さんは意外にも、快諾してくれた。
「下着とか、虫除けスプレーとか…。あ!あと、レインコートとかも買いに行きたいの」
「じゃあ、車出すよ。久々だし、明日は俺が運転するから、マユミは後ろでメイコ見とけば?」
最近あまり会話が無かったけど、前に私が、小さい子どもと一緒の時に運転するのが怖いと言っていたのを覚えててくれたみたい。何となく、ちょっとだけ嬉しくなった。
「お願いしていいの?」
「うん。たまにはマユミにも楽させてやりたいし…。俺は、運転と荷物持ちしか出来ないだろうけど」
どうやら今日の旦那さんは機嫌がいいらしい。いつもはしない家族サービスを提案してくれるなんて、少し…ううん、すごく嬉しくなる。