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『家族の湯かげん』籐子


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 ふっと笑いながら、私は美幸の隣に座った。
 満点の星空。遠くから聞こえる波の音。二人の間にあった張り詰めた空気が、少しずつ和らぐのを感じた。
「美幸。ありがとね」
「え?なに、急に」
 美幸は訝し気に私を見る。
「お母さん、勘違いしてた。ずっと守ってもらってたのは、お母さんの方だったね」
こんな事を娘に言う日が来るとは。でも、子供と、一人の大人同士として素直に語れる関係になるのは、悪くない。
「迷っている原因が、私の事だったなんて。子供の事は何でも分かってるつもりだったけど、まだまだ母親として半人前ね」
「そんなこと、あるわけないでしょ」
 美幸は前を向き、はっきりとした口調で言った。
「本当は、行くかどうかまだ迷ってる。ヨーロッパなんて、そんな簡単には帰ってこられないし。それに、もしお母さんに何かあったらって考えたら…」
 美幸の声は少し震えていた。
 そうだ、この子はとっても強がりだけど、とっても泣き虫なのだ。自分の気持ちを正直に言おうとすると、涙が出てきてしまう。
 私は、大きく息を吸った。少しひんやりとした夜の空気が、身体の中に溜まっていたよどんだ空気を押し流す。
 私は胸を張り、まっすぐに前を見た。
「お母さんは、そんなにヤワじゃありません」
 思ったより大きな声が出てしまい、二人で顔を見合わせて笑った。
「美幸。お父さんってね、今でもすごくそばにいるような気がしない?」
 突然父親の話題になり、美幸は少し戸惑ったように私を見た。
「え?うん、それは、そうだけど」
「でしょ?この地球上のどこよりも遠くの場所にいるのに、いつもそばで見守ってくれているような気がする。それってね、きっと、私たちがお父さんの事をいつも大切に想っていて、お父さんも、遠くの場所で、私たちを大切に想ってくれているからだと思うのよ」
「…確かに。そうかも」
 美幸は微笑み、空を見上げた。私もつられて空を見る。
 無数の星が輝いている。
「お父さん、今でも毎日お風呂入ってるのかな」
「入ってるんじゃない?自慢の歌声を響かせながら」
「そうだね。最近の曲とかも、ちゃっかり練習してたりして」
「そうそう、いつまでたっても井上陽水じゃ、新入りの人にはもう通用しないかもしれないもんね」
 私達は大声で笑った。

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