「もし事故とかだったら、どこかから連絡来てるだろう」
「いや、そうかもしれないけどさ。とにかく、なるべく急いで帰ってみるから」
何で父はこんなに落ち着いてるんだと、再び不安が芽生え、改札に向かって歩き始めながら、タクミはふと気になって聞いた。
「大体、何で出張早く終わったから帰るって、先に連絡入れとかないんだよ」
「え、いや、それはこうサプライズって言うか。急に帰ってびっくりさせようかとか」
力が抜けそうな答えに、馬鹿じゃねーの、と言いたくなるのを、タクミは心にしまった。
駅から小走りで、タクミは自宅アパートに向かった。電車の中からメールを入れてみたが、やはり返信はない。スピードを早めながらアパート手前のコンビニを通り過ぎようとしたところで、雑誌コーナーに立ち読みしている母がいることに気づいた。本当にこっちに来ていたのかと、驚きと安心が同時にやって来る。ガラスごしに母も外の様子を伺っていたようで、タクミを見るとすぐに雑誌を棚に戻して出て来た。
「おかえり!タクミ~」
父はあんなことを言っていたが、別に恥ずかしそうでもなく、たださすがにほっとした様子である。
「何してるんだよ、いきなり来るとか~。俺が今日サークルとか飲みに行ったりとかしてたら、どうする気だったんだよ」
「一応こっち着いてすぐメールしようとしたんだけど、充電切れちゃってて。いや、焦った~!」
「は?充電?マヌケすぎだろ。ちょ、待って。父さんに連絡入れとく」
「お父さん?何で?」
不思議そうな母を制して電話をすると、父は満足そうにタクミからの報告を聞いた。父には母の行動パターンがわかってるってことなのか?と半信半疑ながら、何だか自分だけ損した気持ちだ。
「あらら、悪いことしちゃった。明日帰ってから話すつもりだったんだけど、驚いてた?心配してたみたい?」
状況説明を聞いて反省しているかと思ったのもつかの間、母は2階のタクミの部屋に入るやいなや
「ちゃんと掃除してる?ゴキブリなんていないでしょうね」
と、けろっとしたものである。
「そこかよ。まったく、人騒がせだなー。黙って来るとか、何あるかわかんないじゃん」
「ふふ、ちょっとくらい驚かせようかと思ったんだけどさ。今どこにいると思う~?とかって。充電切れてたのは想定外だったよ。いやー、会えてよかったぁ」
「驚かせてどうするよ。明日だって、俺休みじゃないし。一限目からだし」
「お父さんも帰って来たことだし、私も早めに帰るからご心配なく。ねえ、ご飯どうする?泊めてもらうお礼にそのくらい作るね」