「そうだな。お父さんも、ビックリしたよ。航にあんな可愛い彼女ができたなんてな」
「そうね―。でも、今日、二人を見てて、お母さんは、なるほどなって、思ったな」
「全然わかんないし~」と優香が、不満そうに言う。
「まだ、わかんなくてもいいよ」と私は、優香に微笑む。
洗い物や部屋の片づけを終えて、私は、一人ベランダの椅子に座り、缶ビールを飲んでいる。
夜空には、8分くらいの丸いお月様がぼんやりとした光を放っている。
お風呂から上がった、富雄さんは、パジャマ姿で、首にかけたタオルで汗を拭きながら、缶ビールを持って来て、「お疲れ様」と私に向ける。
「富雄さんも、張り切りすぎて、疲れたでしょう」
「ああ、疲れた。けど、心地いい疲れだ。いい子だな。美玲さん」
「そうね。見た目のきれいさもだけど、素直で心もきれいな子ね」
「ああ、そうだな」
富雄さんと夜空を仰ぎながら、ビールを飲んでいると、
美玲を送った航が、ベランダに顔を出し、「今日は、ありがとう。彼女とても喜んでいたよ」
私は「そう。良かったね」と笑顔で応える。
行こうとした航に、富雄さんが「おい、航。お母さんに今日“も”ありがとう。だろ」
航は、少し照れながら「はい。今日も、ありがとうございます」
私も少し照れて「はい。どう致しまして」
「風呂、入るね」と航が行く。
私と富雄さんは、また、黙って夜空を見上げながら、缶ビールを飲む。
私は、この家族でいられる幸せをほろ酔い気分で満喫している。
航の薄暗い部屋の勉強机の上に置かれた新品の1080mlのモンダミンにハートの形のメモで【母の気持ち】と書いてありリボンがつけられている。