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『ひいばあちゃんの蜜柑』本山みなみ


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 ひいばあちゃんが消防用水の傍を通る度に、同じことを言うことが、千果にはちょっと面白い。
 消防用水だよ、ちょっと難しいその言葉を教えてあげる度に、ひいばあちゃんは目を丸くして驚いたあと、必ず、
『そんな難しい言葉を、この子はよく知っているねえ』
 と褒めてくれるからだ。
 お父さんもお母さんも千果のことを褒めてくれるけれど、ひいばあちゃんほどには褒めてくれない。ひいばあちゃんは何度だって、同じことを言ってたって、褒めてくれる。
 お父さんたちはひいばあちゃんのこと、何でも忘れちゃうから困ったもんだと言うけれど、忘れちゃうことってそんなに悪いことでもないんじゃないかな。
 千果は思い出して嬉しくなる。
 千果が何をしても、ひいばあちゃんは褒めてくれる。
 宿題をしていても、おやつを食べた後に手を洗っても、夕ご飯のときにひいばあちゃんのお味噌汁を持っていってあげても、学校の話をしても、何をしても、だ。
 それどころか、本当なら褒められるはずのない場面――例えばお茶をこぼしてしまっても、お母さんみたいにすぐに怒らないで優しく、
『ちゃんと拭きましょうね』
 と言ってくれる。そして拭いたら、
『あら、偉いのねえ』
 それから、五月にある遠足の話だってそうだ。遠足が楽しみで仕方のない千果が、何回同じ話を繰り返したって、ひいばあちゃんはちゃんと千果の話を聞き、そしてこう言ってくれる。
『あら、いいわねえ。楽しみねえ。それで、どこに行くの?』
 と。
 お父さんやお母さんじゃこうはいかない。
『さっきも聞いたわよ』
 とか、
『はいはい、わかってるよ』
 とか言って、全然ちゃんと聞いてくれないのだ。
 嬉しいことは、何度だって話したいのに。
 千果はそう思って残念な気持ちになる。だから、ひいばあちゃんがちゃんと答えてくれると、とっても嬉しくなる。
 ほら、やっぱり「忘れる」って、悪いことばっかりじゃない。
「ひいばあちゃん!」
 家に着くと、千果は「ただいま」のかわりに、ひいばあちゃんを呼んだ。
「お帰り」
 台所で忙しそうにしているお母さんよりも先に、ひいばあちゃんが答えてくれる。
 千果はいそいそとひいばあちゃんの傍でランドセルを開けた。
「あのね、今日、先生に褒められたよ」
「あら、どうして」
「えっとね、あのね、うーんと……」

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