家の前に自転車を停めながらカツオが言う。
「おれ、クチュクチュしてきたしな」
聞こえないさち子が「え?」っと手振りで聞くと、「ジョーダンや、気にすんな」と手振りで答えるカツオ。
よくわからないまま、にっこりして出窓から大きくマルの合図を出すさち子、そう、出窓のお姫さま、theさち子バージョン。
玄関からは登紀子がカツオを迎える声が聞こえてくる。
「よー来たねー、かっちゃん、あがって」
「おじゃまします」
その声を聴きながら、さち子が出窓にほおづえついてつぶやく。
「かっちゃん、ママな、また美魔女目指し始めたんやで。みつ子もお笑い芸人みたいに笑ろてるし、パパもはよ帰ってくるねん。ポン太も駐車場から色んな人が見れてご機嫌さんや」
そしてスックと立ち、空を見上げる。
「そやしさち子、また頑張るわ。そいで、この出窓、守るしな」
さち子の言葉が、商店街を駆け抜け、青い空に響く。
「きっと守るし、ずっと、見ててな」