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『亜津美の受験』曽我部敦史


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「バイトは?」
「あるよ」
 亜津美はパンを咀嚼するのも気だるくて、紅茶で飲み込むように食べた。最近、朝はいつもこのスタイルである。
「母さん、オレの昼飯どうすんの?」
 賢太郎は甘っちょろいシリアルを食べながら聞いた。
「ああ、おばあちゃんに聞いてみて」
 その間も母親はせわしなく動き回っている。
「あんたもたまには自分で作ってみたら」
 亜津美は嫌味を言ったが、そう言う亜津美も、実は料理は苦手だ。
「だってオレ、何も作れないもん」
「チャーハンぐらい誰でも作れるわよ」
「いいの、いいの、面倒だから。何ならカップラーメンでもいいし」
 だめだこりゃ、亜津美は追求をやめた。
「そういえばおばあちゃん、最近、麻雀行ってるの?」
 祖母は近所の健康麻雀にはまっていて、毎日のように通っていたときがあった。なんでも頭の回転が早くなるらしい。亜津美もしつこく勧められた。
「どうなんだろう、わかんない」
 母親は妙に素っ気なく答えると、慌ただしく家を出て行った。
 朝の早い祖母は、いつも先に朝食を済ませている。この時間なら、二階のベランダで洗濯物を干している頃だ。両親が共働きなので、色々と家事をやってくれて助かっている。本来なら、亜津美が手伝わなくてはならないところだ。
祖父が亡くなり気落ちしていた祖母を迎え入れたのは、もう何年前になるだろうか。今でも祖母は亜津美たち家族に対してどこか遠慮している部分がある。そのせいか、気を回して色々やってくれるのだが、正直ありがた迷惑な部分もあった。かけなくてもいい洋服にアイロンをかけてくれたり、履く気のない靴を玄関に用意してくれたり、些細なことではあるが、何事も積もればストレスになるものだ。
 とはいえ、いちいちそんなことにストレスを感じてしまうのは、やっぱり気持ちが不安定だからだろう。その理由は自分でもよくわかっていた。ここにきて偏差値が思うように伸びていなかったのだ。第一関門のセンター試験までは、あと一ヶ月を切っている。
 あとは、亜津美が奨学金制度を使わなければならないことも影響しているかもしれない。仕方がないことだと割り切ってはいるが、心のどこかでは両親に対する不満が残っている。親としては長男である賢太郎にお金をかけたいのだろう。いつも賢太郎ばかりが可愛がられる。幼い頃からそうだった。姉である自分はいつも損する役回りだった。
 亜津美は自分の家族があまり裕福ではないことは小さい頃からなんとなくわかっていた。亜津美が小さい頃から両親はずっと共働きをしている。もちろん、義務教育まで学校に行かせてくれたことには感謝している。

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