「仕事があるのよ」
ぼくは首を左右に振った。
「だって行くって言ったじゃん。みんなで行こうねって約束したよ。おばあちゃんから手紙もらったし、『待ってるね』って書いてあったよ」
「そうだけど、明日は行けないの。ほら、学校のお友達と……」
「ぼく、友達いないもん」
お母さんは、腰に手を当て、溜息をついた。お父さんがトイレから出てきた。
「どうした、智子?」
「ほら、福島に行くって言ってた話」
「ああ……良太、明日は行けないな」
ぼくは下を向いた。
「おっと、まずい行かなきゃ……じゃあな、良太」
お父さんは逃げるように家を出た。
「じゃあ、私も行ってくるから。戸締りちゃんとして火は使わないでよ。あと夜は、これでご飯買って食べてね。お父さんのお金だから無駄使いしないでよ」
お母さんは交通ICカードを手渡した。これでピッとやれば支払えるのだ。
「一人で大丈夫よね」
そう言い残し、お母さんは大好きな職場に向かった。
ぼくは朝ご飯を食べるのをやめ、おばあちゃんに電話した。
「……もしもし。おはよう、おばあちゃん」
「おや、良太かい? おはようさん。どしたんだ朝っぱらから電話さ、かけできて?」
おばあちゃんの言葉は少し『クセ』があるからおもしろい。
「明日ね、おばあちゃんの家行けなくなっちゃった」
「なんだ、良太に会えねえのかい?」
「でも、ぼく……おばあちゃんに会いたい」
「婆ちゃんも会いでえよお。んでも一人じゃ来れねえべ? また今度、来らっし」
電話が終わると、椅子に座っておばあちゃんの手紙を見た。
「……しまけん……しんしろ、か」
漢字が沢山あるが、住所はなんとか読めそうだ。夏休みなのに、ミノムシみたいに家に閉じこもってるなんてつまらない。
ぼくはもう小学生だし、子供じゃないんだ。一人でなんだってできるもん。
服を着替え、リュックを背負い、帽子をかぶって準備OK!
「よーし。おばあちゃん家に行ってみよう!」
ぼくは、歩いて駅に向かった。