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『ヒーローショー』利基市場


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 にやりと笑いながら、娘は俺に訊く。娘の意地悪を、俺は愛してやまない。
「見たいよ」
「いやだっ」
 そういって、娘は作文を持って妻のいるソファへと、はしゃいで行った。妻の膝元に飛び込んだ娘は、耳かきして耳かき、と甘えている。足をばたつかせる姿に、妻は動いたらできないでしょ、と微笑んでいる。
そこにいたい。
 俺は、妻の隣に、娘の隣に腰掛ける。娘の足が何度となく太ももにぶつかる。娘の爪が長くなっていることに気づき、切ってあげようかと言いかける。耳掃除をする妻の愛の眼差しと、それを溢すことなく受容する娘。そこで完結する空間がひどく眩しい。
 娘の足元に、例の作文がこぼれおちている。逆さまになっている作文用紙には一切触れないようにして、目を凝らし精一杯読み込んでいく。
 お母さんはいつもお家でたくさんわたしのためにいろいろとしてくれています。お母さんは朝はやくからご飯を作って、お掃除や洗濯をしてくれています。お母さんは、たまにお布団も干してくれて、そんな日は干したてのお布団が気持ちよくてとっても嬉しいです。わたしが家に帰ってくる頃には、お母さんはいつもお風呂をわかしてくれていて、お風呂から上がるとご飯ができています。わたしがご飯を食べた後は、お母さんはたくさんのお皿洗いで大変そうです。なので、たまにわたしはお母さんのお皿洗いを手伝っています。お母さんは、手伝ってくれてありがとうと、いつも笑ってくれます。それと、お父さんは、いつも帰りが遅いけれど、たまにすごいことをしてくれます。それは、ぶりんぬ退治です。わたしはぶりんぬがとても嫌いなので、お父さんがぶりんぬ退治をしているときは、ヒーローにみえます。おわり。
 どうやら、俺は家での役割が少なかったようだ。妻はお弁当を作ったり、掃除をしたり、洗濯をしたり、そんなことを娘はしっかりと目の当たりにしていた。それらは全て、一つ一つが家族とのコミュニケーションに繋がりうる。もちろん、俺だって家の外で仕事をしている。けれど、娘や妻の視界に入ることなんて一ミリもなかった。そうなると、二人にとって俺の存在は、薄く小さなものになってしまうのかもしれない。本当は家でも、やるべきことがたくさんあるのだと気づかされる。
 求められるものには、きちんと応えてきた。けれど、それだけでは、考えていること、知っていること、言葉にうまくできないありとあらゆることが、伝わらないのかもしれない。きちんと与えられるひとに、なりたいと思う。それは見栄だけのためではなく、本質的に家族を大事にするということに、きっと繋がるのかもしれない。

「パパ、また出た! 月に三回も、もうやだぁ」
 退治しなかった例のぶりんぬが姿を現したのだろうか。今夜もヒーローショーがまたはじまる。
 本当はぶりんぬが憎い。俺よりも娘の注意をひきやがって。でも、ありがとう。悪役がいなければ、ヒーローの出番はないのだ。

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