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『ヒーローショー』利基市場


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「あれ、どっかいっちゃった!」
 パパぁ、と娘が気だるげな声を出す。はいはい、ごめんな、と一応言っておく。
「どこ行ったのかな。タンスの裏とかにいるかもよ」
 一度現れたぶりんぬが消えたとき、それは現れることそれ自体よりも一大事である。そうやって、ぶりんぬは人類を、何より娘を苦しめてきた。
「もう嫌なの、最近夢から覚めるたびにあいつが近づいてくると思ったらこれだよ。今晩、絶対わたしのからだをはってくるよ」
 ぶりんぬ側はさほど君ばかりには興味はないだろう、と言いかけるが飲み込んでおく。
「だいたい、ぶりんぬなんて可愛い名前つけているだから、ぶりんぬちゃんと仲良くやりなさい」
 ぶりんぬとはお友達になれなぁい、と娘はクッションを顔に押し付けている。そのクッションにぶりんぬいたらどうするの! と言いかけるが飲み込んでおく。いつだって娘に遠慮している自分に気づく。
 どこを見渡しても、部屋にはぶりんぬはおらず、入ってきたドアの内側を確認してみる。すると、ドアノブの下に隠れるようにして、親指大のぶりんぬは息をひそめていた。
「ほら、ゴキブリいたよ! はやく、ゴキジェットかして!」
「もう、ぶりんぬって呼んでよ!」
 今、名前はどうでもいいよ。
 娘から投げ渡されたゴキジェットを構える。照準オーケイ、前線オーライ、本日も感度良好です。引き金を引くと、目標に綺麗な直線を描き、煙弾が飛んでいく。ぶりんぬはすぐに息絶え、床で「帯」みたいな字になっている。なんだか昔よりも効き目が強力になっている気がする。これをティッシュに包んで庭にかえすまでが俺の仕事だ。その都合上、いつも庭に出てしまうから、その後に娘の部屋に戻るきっかけがまるでない。それゆえに、ぶりんぬ出没日でも会話はぶりんぬがいるときだけだ。そして、会話の内容はぶりんぬだけだ。ぶりんぬは娘と俺を繋ぐ、絆。なんてことは死んでも思いたくはない。だいたい、俺はぶりんぬが嫌いだ。見た目ということよりも、娘の注意が俺以上に注がれているところとか。たぶん、ぶりんぬと娘は何度も目があっているが、娘と俺は一度もあうことがない。
 庭にぶりんぬをかえしたあと、キッチンの妻に訊く。キッチンには、夕飯の匂いがかすかに残っている。
「いつになったら虫が平気になるんだろうな」
「さぁ。でも、女の子は大人になってもあんなもんじゃない。私も苦手だし」
 カチャカチャとお皿の擦れる音がきこえる。綺麗に洗われた皿の上に、明日は俺のご飯が盛り付けられる。しかし、明後日と、さらにその次の日は、そうはならない。
 今日は会社の新人歓迎会があったから、俺のためのご飯は今日も用意されていない。どこか口さみしい気がして、冷蔵庫を開ける。残り少なくなった缶ビールたちの中から、適当にひとつ選んでソファに腰掛ける。ぷしゅっという音がして、勢いよく出てくる泡をすべて吸い込むくらいの気持ちで食らいつく。

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