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『タオルケット』もりまりこ


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 ハルヲも両親には恵まれずに育ったせいか、ノアールがともだちだって本気で思っているところがあって。ペットってことばもきらいみたいで、ペットショップっていう看板をみただけで、少し機嫌が悪くなるのだ。
 そういうときは、そっとしておく。
 自動車事故で、お父さんとお母さんと弟をなくしたハルヲは、いまも自転車が好きで、時折、前カゴにノアール乗っけて、坂道を汗だくになりながらペダルを漕ぐ。
 この重さが俺の幸せだっていつか叫び出すんじゃないかってぐらいの勢いで、坂でもペダルを全速力で漕ぐ。

「はてなのマーク」
「はてなって? くえっしょん?」
「うん、あれはほんとはなにか知ってる?」
「なに? ほんとって?」
「ほんとはね、猫の後ろ姿でさ。先をくるんと曲げてる尻尾とお尻のデフォルメだって」
 ハルヲの指先が?マークを宙でなぞる。
「んで?」
「でね。びっくりマークもおんなじで。少し警戒してる時の猫の緊張した尻尾とお尻だって」
 ばかばかしいけど、ハルヲの目はちょっと猫愛に満ちていたので、わたしもそのアイデアを買ってあげた。

 築50年も経っている海の家みたいな家に住まうようになって、ウチに猫がいるせいか、野良猫もやってくるようになった。
 いつのまにか、馴染みの来客のようになって猫の額ほどの庭に居ついたりしてる。2日間だけずっと姿を見せていなかったキジトラの猫がずっと家の敷地内で鳴いていた。
 わたしが台所に立つと鳴きはじめて、家事が終わると泣き止んだ。
 喉を転がすような、せつないファルセットが続く。
 耳に響くっていうより、なんか胸に反響してくるみたいで痛い気持ちが襲ってくる。
 わたしが捨てたわけじゃないのにわたしが置き去りにした猫がここに戻ってきてるみたいな感情に包まれる。
 それをみているわたしの後ろでノアールがじっと、キジトラをみつめていた。
「ひとりなのかな? ノアール気になるの?」
 わたしを見上げたノアールは、ちいさく喉を鳴らしてわたしの腕からすり抜けてまた窓の前に座ると、迷い猫をみつめる。
 幾日かそんなことが続いて。ハルヲも仕事が休みだったその日。日に日に掠れてゆく切なそうな声が、いつしかキジトラとノアールが喋っているみたいな声に変った日をさいごに、その迷い猫はどこかにいってしまった。

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