8月期優秀作品
『タオルケット』もりまりこ
しなっとしてる。
湿気の多い海辺で洗濯物をしたときのような渇き方の衣類のように。
かりっとするには、もう一声って感じの手触り。
でも、それがいつのまにか馴染んでしまって、夏の間は手離せなくなってし
まったタオルケット。
破けたりはしないけれど、洗濯機の中でずいぶん鍛えられた糸かがりの部分はがりがりを通り越してこなれてしまったようだ。
あたらしいものも、クローゼットの中にあるのに、なかなかそれを使えないでいる。まだ使えるからっていうより、ずっとこれを使っていたいっていう気分の方がすこしだけ勝ってるのかもしれない。
タオルケット、すなわちライナスだと思ってた時があって。
ずっと昔に、ライナスがどうしてあんなに毛布ばっかり引きずって歩いているんだろうと、ふしぎになったことがあった。そのことを口にしたら、義母の晴さんは、あの姿はまるであなたみたいよって返されたことを思い出す。
小学校に通う手前までずっとタオルケットといっしょじゃないと眠らないってストを決行していたことがあったらしく。わたしの居ないすきにそれを洗濯するのが大変だったんだからと、それは昨日までのあなたよといわんばかりに、懐かしそうに話してくれた。
晴さんとは大学4年の頃離れ離れになってしまってからも、その話だけは何故だか憶えていた。
小さい頃ともだちとともだちらしい遊びがなにひとつ出来なくて、義母の晴さんはわたしにとってのともだちに近かった。
だからもう逢えないことを知った時、唯一のともだちが遠い場所へ行ってしまうと、すこし取り乱したけれど。なにより見ているすべてのものがよそよそしくて、かなしくなった。
これがないと眠れない。そんなダダをこねていたころは、とっくに遠景になってしまったけど。小さい頃のじぶんのような習性を持つ人と、いまは暮らしてる。
いつもブルーと白のストライプのタオルケットが好きで、夏はそれに顔を埋めるようにして眠るハルヲ。
そばに猫もいて、彼は彼の居場所があるらしく彼の足元で眠っている。
結婚する前から、猫とハルヲは同棲していた。
猫の名前はノアールだった。もっとふつうの名前でいいのにねって、わたしが真夜中みたいに真っ黒けのノアールを膝に抱っこしながら言うと、言いたいことあったら俺の顔みてまっすぐ言えっていうんだよねってハルヲは、ノアールをわたしの膝からじぶんのお腹の上に移動させて、猫の耳に囁いた。