しばらくじっと考え込んでいた夫が、おもむろにスマートフォンをいじり出した。なにやら文字を打ち込んでいるらしい。やがて、
「このような方法を試してみては、いかがでしょうか?」
といって、画面を見せてきた。そこには、こんな文字たちが行儀よく並んでいた。
//条件分岐:猫を飼う or 飼わない
if リン子さんが金魚の面倒を見る{
猫を飼うことを許す
}else{
猫を飼うことを許さない
}
私はプレパラートを顕微鏡で観察する化学者みたいな目付きで画面に向き合い、じっくり時間をかけて内容を読みといた。
「ええと……つまり、リン子が金魚の面倒を見るなら、猫を飼うの許すってこと?」
「はい」
夫はいたずらっぽい笑顔を浮かべて、うなずいた。私にだって、これくらいなら、なんとなくわかる。でも、たったこれだけの文章を、わざわざプログラミング風(?)に書く必要があるだろうか、いや、ない。
「まあ、より正確にいえば」
と、彼は彼らしい丁寧な補足を加えた。
「金魚の面倒を見るならば、猫を飼うのを許す。それ以外ならば、猫を飼うのを許さない。となります」
「いや、私はそもそも猫を飼うのに反対なんだけど?」
私は、スマホを彼に返しながらいった。
「なぜですか?」
「だから、さっきもいったでしょ。金魚の面倒も見られないのに、猫なんか飼えるわけないって」
「たしかに。金魚の世話ができないならば、猫の世話もできないでしょう」
「でしょ?」
夫が同意してくれているようなので、ひとまず安心した。が、彼の言葉はさらに続いた。
「ですから、まず金魚の世話をさせてみるわけです。金魚の世話ができるようなら、猫の世話もできるでしょうから」
「じゃあ、もしリン子がちゃんと金魚の世話をしたら、どうなるの」