「コーチ、オレはもっと良い動きをしたい。どうすればいいですか」
コーチはリアへひとつ頷き、それから全員を見渡した。
「良い動きとは、良い判断をしたということだろう。良い判断をするためには周りをよく見て、イメージしたことを実行する必要がある。キックかドリブルか、自分が行くか味方にパスするか。ボールをゴールにまで繋げるための最善をつくすアクションだ」
コーチがカズナを見た。
「昨日、遅くまで練習していたそうだな」
カズナは何度も頷き、
「先週の対抗試合でボールがコントロールしきれなかったからです」
「そうだ、だから練習した。カズナ自身が今必要なものを考え、練習という行動にうつした」
コーチに見つからないように、カズナはリアを突っついた。
「今君たちにオレが与えられることは、君たちのもっているセンスを引き出せられるだけ、引き出すことだ。完璧なプレー。それが出来ればもちろん、すばらしい。けれどもそんなものはまぐれくらいの確率だ。シュートひとつの行動でもどれほど反復練習してもかまわない」
それから、
「カズナ、がんばれよ」
声をかけられた。
はい、と元気に答えた。
帰り道、カズナはリアを呼び止めた。
「どうしたらサッカーうまくなれるかな」
リアは少しだけ考える素振りをして、
「サッカーはチーム戦じゃん。オレもカズナをサポートするけど、カズナもオレをサポートするかんじ。チームで勝つ」
「チームで勝つ・・」
「オレだってトラップまだまだだし」
リアがトラップを苦手にしているなんてカズナは思ってもみなかった。けれどもリアの目つきは真剣そのものだ。だからきっとそうなのだ。
「あともうひとつある」
「え、ほかにもあるの」
「なるべく話しかけるようにしてる」
「なにそれ」
「昔コーチに教えてもらったんだ。話すと、何となくそいつの性格とからくせとかが頭に入りやすくなるらしい。やっぱチーム戦だし、チームメイトとのコミュニケーションていうやつ、そういうのあったほうが絶対いいじゃん」
カズナは大きく目を開いた。
「すごい。チームで勝つためにそこまで」
リアは顔を横に向けた。トラップのことあんまり人に言うなよ、とだけ言うとリアは帰って行った。