「俺の母ちゃんがくそばばあなところは、あの厚塗りの化粧だ。スーパーへ行くのにもがっつりと化粧をしていく。唇が分厚く真っ赤になって、それとは対照的に顔は真っ白だ。息子からしても、母ちゃんの素顔は決して悪くはないと思うんだよ。でも化粧をするとほんとにひどい。化け物級だ。なんでわざわざ変な顔にして外に出るのかね? 俺としては一緒に歩きたくないから、出かける時も離れて歩くよ」
大樹君の発表を聞いて、みんながわいわいと話し始めます。
「確かになー。大樹の母ちゃんと会うとびっくりするもん。大樹の母ちゃんのすっぴんは見たことないな」
「普通はすっぴんが見てられないってことなんだろうけど、大樹の母ちゃんは逆のケースってことか」
「化物っていうより、おかめって感じだったよな」
「おかめってなあに?」
女の子が訊ねました。
「お前、おかめ知らんの?」
「知らない」
その会話に葉子ちゃんが口を挟みました、こんな顔だよ、と両手で自分の顔を挟みます。ほっぺが潰れて唇が突き出されました。普段の可愛い顔が思いっきり崩れます。アイドルのような顔がひょっとこみたいな顔に変わって、みんなが一斉に笑いました。
「よし、次にいこう。次は誰が発表する?」
はい、と咲良ちゃんが手を上げました。
「私のお母さんね、とにかく怒るの。もう、いつもぷりぷりしてる。勉強しなさいだとか、片付けしなさいだとか、弟の面倒見なさいだとか。笑ったとこなんか見たことがない。もうね、こんな般若のような顔なんだよ」
そう言って咲良ちゃんは両手の人差し指を目の横に当てて吊り上げます。両目が吊り目になったので、みんなが本気で「怖いよ」と口にしました。
咲良ちゃんは続けます。
「いや、お母さんが怒った顔はこんなもんじゃないよ。本気で怖い。家の外だったり友達が来てる時には絶対にやらないけどね。私はね、人間の顔がこんなに怖く変貌するものかと、そりゃあもうたまげたね。あたしゃあ、たまげたよ。びっくりだよ」
なんだか最後のほうはちびまる子ちゃんの口調を真似していました。咲良ちゃんはたまにちびまる子ちゃんの真似をしています。でもあまり似ていませんが。
「うーん、その般若の顔を実際に見てみないとくそばばあかどうか判定ができないな。でもさっきの咲良の顔は明らかにくそばばあのそれだったから、とりあえず暫定的にくそばばあ認定しておくか」
「ざんていてきって?」
翔太君はおふざけが多い割に勉強家で本をたくさん読んでいます。時々難しい言葉を使うので、こうして聞き返されることもあります。