8月期優秀作品
『くそばばあ大会』高瀬ユキカズ
池谷山小学校三年二組はとってもいいクラス。いじめもなくて、みんな仲良しです。
でも、やんちゃな子もいて、時々悪ふざけをしたりします。
走り回って、飛び回って。
男の子はけたけた笑って、女の子はきゃっきゃっ笑って。
悪ふざけといっても悪意がないから誰も傷つくことはありません。
みんないい子で、明るく元気。
こんなクラスだから、去年お母さんが亡くなってしまった山崎稔君も元気に学校へ通えています。
授業が終わって担任の先生が職員室へ帰っていくと、この日は富永翔太君がこんなことを言い出しました。
「みんな聞いてくれ。今から、くそばばあ大会を始めます」
一瞬みんながきょとんとした顔を浮かべた後、クラスはどっと沸き返ります。
「なんだよ、それ。くそばばあって」
「えー、変なの。くそばばあ大会ってなあに?」
「なんなんだよ。大会って何をやるんだよ」
口々に囃し立てました。
そんなみんなを制して、翔太くんが叫びます。
「くそばばあを決める大会です!」
翔太君はこんな感じにいつも変なことを言い出します。
「誰の母親が一番くそばばあかを決める大会です」
くそばばあが母親を指していると聞いて、みんなはざわざわとしはじめます。そんな中、葉子ちゃんが声を上げました
「ひどいー、私のお母さん、くそばばあじゃないし」
葉子ちゃんは軽い口調で笑って言いました。葉子ちゃんのお母さんはとても上品で女優みたいに綺麗なことはみんなが知っています。葉子ちゃんもお母さん譲りの丹精な整った顔立ちで、クラスのアイドルです。
「どんなお母さんにも、くそばばあな部分があるはずです。葉子のお母さんでも絶対に何か一つはあるはず。みんなもお母さんの不満点があったら発表してくれ。このクラスの『トップ・オブ・ザ・くそばばあ』を決めようと思う」
翔太君によると誰のお母さんが最もひどいお母さん、つまりはくそばばあなのかを決める大会だそうです。
翔太君にはそんなに深い考えはないのです。ただちょっとした悪ふざけのつもりでした。
そんな翔太くんの発言に、あかりちゃんが憮然としながら言いました。
「稔君のお母さん、去年死んじゃったんだよ。やめようよ」
あかりちゃんは訴えます。
あかりちゃんは心配そうに稔君の顔を見ました。でも稔君はいつものからっとした表情で、特に気にしている様子はありませんでした。
「全然平気だよ。もう一年も経っちゃったしね。でも僕のお母さんはまったく叱ったりしなかったから、くそばばあなところってあったかな?」