稔君はお母さんのことを思い出しているのでしょうか。くそばばあな部分が思い出せないようで、首をひねっていました。
「じゃあ、稔は無理に発表してくてもいいよ。俺たちの話を聞いてくれ。みんな、大会を始めていいか?」
翔太君が同意を求めるようにクラスを見回します。誰からも反対の意見は出ませんでした。
葉子ちゃんが手を挙げて提案します。
「弁論大会みたいな形式にしない?」
「いいね」
翔太君がそれを了解し、「最初に誰から始めようか」とみんなに声をかけます。すると、葉子ちゃんが手を挙げました。
「私からいっていい?」
翔太君が「よし、葉子から始めよう」と言って大会が始まりました。
葉子ちゃんが立ち上がります。
「じゃあ、私から。私のお母さんは若い頃モデルをやっていました。読者モデルといって、ファッションショーなどに出るファッションモデルとは少し違います。読者モデルは人前で歩いたりするのではなく、ファッション雑誌でかわいい服を着て雑誌の写真に載ります。お母さんが掲載されている雑誌は私の宝物です」
誰かから「自慢かよ」と野次が飛びます。でもけっして嫌味な感じではありません。軽くからかうような感じだったので、葉子ちゃんもにこっと笑って受け流します。
「でもそんなお母さんは私に聞こえるように私の前でだけ、わざと大きな音でおならをします。お父さんの前では絶対におならをしないのに、私と二人きりになるとします。『ぶー』ととても大きな音です」
すると「ええっあの綺麗なお母さんが」、「信じられないー」、「うわー幻滅だあ」といった声が飛び交いました。
「でもこのあいだ、『ぷぴっ』という可愛いおならをしたので笑っちゃいました」
その『ぷぴっ』という言い方が可愛らしく、はにかむような感じでした。みんなはうけて、どっと笑います。
翔太君が葉子ちゃんに訊きました。
「そのおならは強烈に臭いのか?」
葉子ちゃんは答えます。
「うーん。あんまり臭くないんだよね。お父さんのおならは強烈だけど」
「じゃあ、まだまだくそばばあには程遠いな」
「そうかもね」
葉子ちゃんは両方の手のひらを上にあげて、残念といったポーズを取って座りました。
次に発表したのは、大樹君です。意気揚々と立ち上がりました。