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神様は、満足そうだった。
これまでとは違う、深い、慈愛に満ちた笑顔を向けて、私を見つめる。そう、意味深に。
そして、さも、それが当然だというように、名前を捨てた私を見つめ続けている。
私はさらに軽くなり、どんどん上へと進んでいった。白から青へ、藍から、赤へ、そしてまた白の世界を通り過ぎ、天はますます輝きを増しているようであった。現世を去るのに必要なのは、ひとつ、ひとつ、私自身を捨てていくことなのかもしれない。お金にしても名前にしても、そういえばすべてが現世に寄りかかったものばかりであった。
軽々と舞う身体で悟ったようなつもりでいたら、神様がまた口を開いた。
「これが最後です、リンゴアメさん」
リンゴアメって何? と、一瞬思ったが、目の前の神様が私を見てそう呼びかけるのだ。
なるほど。
リンゴアメ、間違いなく、それは私のことだろう。
「リンゴアメさん、あなたが握り締めている、『思い出』を手放してはくれませんか?」
神様は容赦ない。財産を捨て、名前を捨て、何ひとつ持たない私に向かって、またしても、最後の荷物を捨てろと言う。
「思い出を、置いて行ってください」
神様の言葉に、私は図らずも泣いていた。
今すぐ大好きなタケルさんに会いたかった。
今すぐ大好きな舌足らずの娘に会いたかった。
二人を抱きしめ頬ずりをして、大好きだよと伝えたかった。
リンゴアメとなった私の右手には、思い出の玉がぐるぐると絡まっていた。思い出の玉は澄み切った光を放ち、数珠のように連なって、果て無く続いていた。涙をぬぐい、玉のひとつをじっと覗くと、そこにはタケルさんの姿があった。
タケルさんは左手の小指だけが、うんと短くて。私たち二人がまだ友人同士であった頃、「こんなだから、赤い糸を掴めないでいる」などとよく軽口を叩いていたりもした。けれども、なんのことはない。その糸は、しっかりと私が手繰って、引き寄せて、掴んで、離さなかった。知り合ってから七年目の四月のあたたかい雨の日に、たくさんの人に祝ってもらって、私たちは一緒になった。遠くに川を望む、風の気持ちの良い場所に小さな城を構え、つつましく毎日を過ごす中でやがてアイが生まれた。アイは私よりもタケルさんに似ていて、そのことを私はものすごく喜んだ。私の生意気そうにとがった鼻や、人を寄せ付けないように見える一重の目や、固い乾草のような髪は、アイには遺伝しなかった。代わりに、人懐っこい丸い鼻と、朝露を集めたような艶やかでうつくしい瞳と、赤味を帯びた絹のような髪。愛する夫のミニマムサイズに生まれてきたアイを、これからずっと、大切に育て守り抜いていこうと固く誓い、彼女のために頑張ろうと思っていた。私は母が私にしてくれたように、アイをあやし、身の回りの世話をした。母ほど上手にできなかったけれど、その分、タケルさんが一生懸命助けてくれたっけ……
喜びが蘇る毎に、ぱちんぱちんとひとつずつ玉が弾け、私の身体はさらにふわふわ軽やかになった。