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『リンゴアメ』中川マルカ


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 大好きだった人たちと天国で再び出会って、懐かしい話に花を咲かせるというのが正しいあり方だろうと勝手に思い込んでいた。だけれども、神様は私に名前を捨てるようにと言う。名前を無くしたら、一体私は何になる? 「青森カーマ」を名乗らずに、今の私のうすぼんやりした得体のしれぬ姿を、誰が私と認識してくれるというのだろう。名前さえ持たぬ私を、どうやって説明し、私としてわかってもらえば良いのだろうか。せっかく、死んでここまで来たのに、懐かしい顔に会って一片の感慨も抱けないともなれば、死後の世界の存在なるものが、私という存在が、ますますわからなくなってくる。母に会って父に会って、タケルさんのことを話して、アイのことを自慢したいのに。カーマでなくなった私を、両親はどうして見つけることが出来ようか。
 どうしたらいい。
 現世では宗教とは無縁だった私も、もはや神様にすがるしかなかった。
「あの、神様、教えてください」
 譲歩でも妥協でもなく、納得できる答えが欲しい。いざ死んで、天国を前にして、今、手放せずにいるものらが死後の世界で本当に必要なのかよくわからない。執着? それは違う。ただ、大切に思っている。それだけなのに。執着と、大切に思うこととは何が違うのだろう。生のことも、死のことも。そして「青森カーマ」という私自身のことも。

 神様はただ微笑んでいる。

 死んでしまって、肉体から離れて、しばらく経って、改めて私は「死んでしまった」状況にひどく困惑させられている。死んだ先での、まさかの苦悩に頭を抱えて足止めをくらっている。「青森カーマ」の居たことを、家族には憶えていて欲しい。タケルさんにもアイにも、「青森カーマ」を残しておきたい。二人が、青山カーマを介して慈しみあえるなら、名前を失っても構わない。私と暮らした日々をどうか忘れないでいてほしい。
 必死に願った時、ふと閃いた。
 「青森カーマ」が消滅しても、青森タケルも青森アイも、現世には変わらず居るわけで、実体のある彼らのことを、私が忘れなければいいのではないだろうか、と。
 そうだ。
 両親のことも、友達のことも、私がちゃんと憶えておけばいい。先に逝った人たちのことも、生きている人たちのことも、決して忘れないよう、心に刻んで去りゆこう。母に会えたら、父を見つけたら、はじめましてと挨拶を交わそう。大丈夫だ。名前より確かな記憶を私は大事に抱えておこう。もう、青森カーマにしがみ付かなくても大丈夫だ。

 私は決して忘れない。
 誰に誓うでもなく、右手を高く上げ、私は「青森カーマ」をゆっくりと天に放った。

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