そういえば葬儀の時にも、仕事関係の人がたくさん線香をあげに来てくれた。皆さん『生前、福根さんには仕事で大変お世話になりまして』と謝礼を述べ、中には涙を流す人までいた。勤め人の経験がない私でも知っているような有名な会社の方から、お悔やみの花が届いたりもしていた。
その時私は初めて、父親の顔ではない『福根歩』の顔を知ったのだった。
一通り片付けを終えさっさと退散するつもりだったのだが、高橋さんに『少しだけ』と引き留められ、私たちはお茶をご馳走になっていた。
「通夜では弔辞をいただき、ありがとうございました」
「それに立派なお花まで!本当にありがとうございます」
「ひより、ちょっと声大きい」
「はは、気にしないで下さい。福根くんには友人としても色々お世話になってましたから。荷物、必要なものはまとまりました?」
「はい。大体は」
「それにしてもビックリしましたよー。通夜にも告別式にも、お仕事関係の方にあんなにたくさん来ていただいちゃって。家じゃ全然そんな感じしないんですけど、うちの父って意外と仕事出来る人だったんですね!名刺もこんなに分厚いし」
ひよりがテーブルの上の名刺ファイルをポンポンと叩く。
「そりゃそうですよ。うちの社員もすごく頼りにしてましたから。みんな、福根くんの復帰を心待ちにしてました。一緒にやりたいことも、まだまだたくさんあったんですけど……」
四角い眼鏡を少しずらし、高橋さんが俯きがちに目の端を手で拭う。
「すみません、歳を取ると涙もろくて」
「うちの父もそうでしたよー。テレビでドキュメント系の番組をやってると、一人泣いてるんです。特に家族モノとか動物モノには、めっぽう弱くて。バレないようにしてるみたいなんですけど、バレバレなんですよね」
「ああ、福根さんらしい」
「ですよねー」
カタカタとタイピングする音に交じって、二人の笑い声がオフィスに響く。もう一度ひよりを注意しようかとも思ったが、高橋さんの笑顔を見たら何も言えなくなってしまった。こういう時は、ひよりがいてくれると場が暗くならなくて済む。きっと私だけだったら、バカ真面目に故人を偲んで重く暗い空気にさせていたに違いない。
「だけどこんな出来た娘さんたちがいて、福根さんも幸せだったでしょうね」
「……そう、でしょうか」
思わず言葉に詰まってしまう。本当に父が幸せだったかどうか、応えてくれる人はもういない。
「うちにも娘が一人いますが、こんなにしっかりしてないです」
「娘さんはおいくつなんですか?」
「今年で二十六になります」
「じゃあ、私の一つ下ですね。お姉ちゃんとは……」
「わざわざ計算しなくていいから」
「その娘も去年、無事結婚しまして。福根くんからもお祝いをいただいてしまいました」
「えー、結婚ですか!?それはおめでとうございます」