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『一枚の半券』小林央


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「東京の大学を選んだ時も、就職しないで役者になりたいって言った時も。反対も何もされなかった」
「それは私も同じだよ。東京で働きたいって言ったら、『お前がいいなら』って、それだけ」
「二十五過ぎて周りの『結婚しないのか』攻撃が激しくなった時も、お父さんだけは何も言わなくて」
「おばあちゃんがその話を始めると、スッと二階の自分の部屋に逃げちゃうんだよね」
「きっと私のことなんか、興味なかったんだと思う」
「基本、放任主義なだけで別にそういう訳じゃないと思うけど」
「……私、ちゃんとお父さんに愛されてたのかな」
「そんなこと」
「そりゃ自分が病気になっても、バイトだ稽古だってろくにお見舞いにも来やしない親不孝な娘なんか可愛い訳ないよね」
勢いで口をついた言葉に、ひよりが足を止めこちらを向く。
「……まだ気にしてるの?自分だけ最後を看取れなかったこと」
「別に気にしてないよ」
「お母さんだって言ってたじゃん。舞台中だったんだから仕方なかったって……」
 その時。ピリリ……と少し甲高い電子音が辺りに響いた。ひよりが慌ててバッグからスマホを取り出し、ボタンをスライドさせる。
「もしもし?あ、高橋さんですか?はい、今向かってます。もうすぐ着くと思うんですけど……」
 仕方ない。
 そう自分を許すことが出来たら、どんなに楽だろうか。巻き戻すことの出来ない時間を悔やんでも、私にはそれを覆すような特別な力はないというのに。そんな簡単なことが出来ない自分に、つくづく呆れてしまう。中途半端に責任感が強くて真面目で。そんな、父とよく中身の似た自分に。

 それから約十分後――。私たちは、父が勤めていた会社にいた。静かなフロアには、十数名の社員さんたちがズラッと並んだパソコンに向かってカタカタと文字を打ち込む音が響いている。
 父の席は社員さんたちの席から少し離れたところにあった。その様子から察するに、どうやらこの会社の中では意外と上の役職にあったようだ。しかもすぐそばの窓から、この街の風景を一望出来る特等席だ。
「ここが福根さんの席です。いつ戻って来てもいいように、ずっとそのままにしてました。必要なものがあれば持って帰ってください。残りはこちらで処分しますので」
 父の長い友人でもあった社長の高橋さんが、人の良さそうな笑顔を私たちに向ける。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、終わりましたら声をかけてください」
 仕事に戻って行く高橋さんの背中を見送り、こちらも早速仕事を開始する。いくら大丈夫だと言われていても、周りは普通に仕事をしている最中なのだから、あまり長居する訳にはいかない。

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