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『おとうさま』広瀬厚氏


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「そうだなあ… 嬉しく思いますあたりで良いんじゃないかな。実はお父さんも良くわからないけどさ」
「父上それじゃ四郎大変困りまする」
 ハハハ、と一郎は笑った。お兄ちゃん、と言って花子も笑った。三郎は、ちょっと前に勉強部屋へ行った。桃子は台所にいる。
「それにしても姫子遅いなあ。もうすぐ八時になるよ。みんなもおなかすいたよな」
 と、一郎は言ってから立ち上がり、台所にいる妻に向け少し大きな声で、
「おい桃子、姫子遅いな。いったい何してるんだ? お前ちょっと電話してみなよ」
「そうねえ、もう帰ってくると思うんだけど… もう少し待ってみましょ」台所から顔をだして桃子が応えた。
 八時が過ぎても姫子は帰らなかった。四郎も花子も、おなかがすいた、と言いはじめた。しびれを切らした一郎が姫子のスマホに電話をかけた。が、なぜだか電話は繋がらない。勉強部屋から出てきた太郎が台所の母親に言う。
「お母さんマジで俺腹へったよ。ちょっと何かつまんで良い?」
「そうねえ、みんなおなかすいちゃうわよね…… 」桃子はそう言って居間に足を向けた。
「あなた、みんなおなかすかしてるから、やっぱりもう先にいただかない?」
「そんな事より姫子に電話繋がらないよ。どうなってるんだ、心配だなあ… 」
 時計を見ると八時半になろうとしている。そこに玄関が開く音がした。
「ただいま」
 姫子の声に一郎は、反射的にソファーからスクッと立ち上がり、早足で玄関へ向かった。激して娘に罵声を浴びせやしないかと心配して、桃子も夫の後を追った。
 靴をぬぎ玄関を上ろうとする姫子の前に、一郎は仁王になって立った。拳をにぎる両の手が心持ち震えている。
「… お、お父様、遅くなってすみませんでした。ただいま帰りました」
 姫子は険しい形相をして眼前に立つ父親に恐る恐る言った。一郎は、それにすぐには返事せず、無言で娘を見つめた。きっと叱られると娘は緊張し、ごくり唾をのんだ。一郎の後ろに立つ桃子は、不安に二人を見守った。
 と、一郎の表情がやわらぎ、にぎられた拳が開いた。
「姫子お帰りなさい。電話も繋がらないし、お父さん心配で心配で泣きそうだったよ。良かった無事で、本当に良かった無事帰ってきてくれて」
「お父さんオーバーよ、携帯の充電が切れちゃったのよ。あっ、ごめんなさい… お父様でした」
「いやお父さんだって何だって良いよ、お前が無事帰ってきてくれさえすりゃさ」
「もうっ、ほんとオーバーなんだから」
 二人のやり取りに思わずプッと吹き出した桃子が言う。
「こんな所で話してないで皆んな待ってるんだから。さあ姫子上がって、早く夕飯にしましょう」
 桃子は、冷めたものを温め直したりして、手際よく食卓に遅めの夕飯の準備を整えた。待ってましたとばかりに家族全員食卓を囲んだ。とくに太郎はすぐにでも食べだしそうな勢いである。揃っての頂きますを号令に、皆腹が減っていたので、食卓の上の料理が早々と平らげられていった。やはり太郎は一番勢いよく、あっと言う間に自分の分を空にした。いつもはゆっくりとして、食べるのが遅い、一番下の花子もぱくぱく食べて皿の上をきれいにしていった。太郎が、ごちそうさまでした、と言って一番に席を立った時、家長様が口を切った。
「えーと、お父様から皆んなに後で話があるから、食事がすんだ者から居間に集まるように」

 食事を済ませ、山田家全員が居間に揃うと、家長様はゴホンと軽く咳払いをして少々緊張した趣を見せた。それから暫時間をあけて、
「お父様は課長になりました」と言った。
 皆何のことやら一瞬わからず、しーんとした。すると太郎が嫌みに言った。
「お父様はずっと山田家の家長様じゃないですか」
「そうじゃなくて、会社でやっと課長に昇進したんだよ」
 年下の課長が部長に昇進すると同時に、万年平社員だった一郎は、ついに課長となったのである。
「えっ!本当に?」思わず妻の口をでた。

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