そう言って私は、壁に付いている部屋の照明のスイッチを切った。
さぞ、綺麗な灯りだろうと想像しながら振り返って、ケーキの上のローソクの方に目をやった。
ほんわりとした、柔らかいオレンジの灯りの向こうに、夢桜の顔が見えた……が、……一瞬、目をパチクリさせたかと思うと、次の瞬間、絶叫して泣き始めてしまった。
これには、私もパパもビックリだ。
私は、今消したばかりの照明のスイッチを慌てて入れ直し、パパは、アワアワしながら、突然泣き始めた膝の上の夢桜の顔を上からのぞき込んでいる。
まさか、こんなに、絶叫して泣き始めるとは思ってもみなかった。
これじゃ、お隣の部屋まで泣き声が聞こえちゃうよー……なんて思いが頭の隅を過ぎったが、今はそれよりも、夢桜を泣き止ませる事の方が先決だ。
もう、ケーキのローソクどころじゃない。
テーブルのところに戻ってすぐに、ローソクの火を吹き消した。
首から下げたカメラの重さがいつもより重く感じる。
「ミオちゃん、どうしちゃったのかなぁ?こわかったのかなぁ?びっくりしちゃったのかなぁ?」
パパが夢桜を自分の方に向かせて抱き上げ、諭すように話しかけているが一向に泣き止まない。
私も夢桜とパパのそばに寄り添い、夢桜の背中をポンポンと軽く叩きながら、声をかける。
「夢桜ちゃん、ごめんねー。電気消しちゃったママが悪かったねぇ。ごめんねー。もう、大丈夫だから……大丈夫だよ、パパもママもそばにいるから、大丈夫だよー。泣きやんでねー」
夢桜の瞳からは、大粒の涙が、いくつも、いくつもこぼれ落ちている。まん丸の透き通った水滴みたいな涙が、ふっくらとしたほっぺの上に溜まっていく。そのほっぺも、紅潮して赤くなっている。
わぁ、これ本気泣きだぁ……大変だぁー
そう思ったが、もっと大変だったのは夢桜の方だったんだなぁ、とすぐに思い直した。
急に真っ暗になって、ロウソクの火だけが目の前にあったのだ。すごく怖かったに違いない。考えてみれば、こんな状況になったのは、夢桜にとっては初めてなのだ。
目一杯泣き続けているせいで、息が苦しくなったのか、途中で一回泣き声が止んで、大きく息を吸い込んだが、落ち着いたらまた元と同じように泣き始めた。
パパが夢桜に顔を近づけて、おかしな表情を作って『バー』をしている。
私も、夢桜の気持ちを落ち着かせてなだめるように、何度も声をかける。
「夢桜ちゃん、今日は夢桜ちゃんのお誕生日なんだよ。お祝いするんだよ。だからね、泣き止んでニコッてしようね、ね!」
そんなこんなで、しばらく大騒ぎをしていたが、泣き疲れたのか、気持ちが落ち着いたのか、なんとか夢桜さまが泣き止んでくれた。
泣き止んではくれたものの、ちっちゃい顔は涙と鼻水と、よだれでぐちゃぐちゃだし、大声で泣いていたせいで、肩のところがまだひくひくしている。
とりあえず、柔らかいタオルで、ぐちゃぐちゃの顔を拭いてあげて、パパの膝の上で座り直すことができた。
「なんか、かわいそうなことしちゃったね。せっかく、お誕生日だったのに……」
「まあ、仕方ないよ。まさか、あんなに大泣きするとは俺も思わなかったし……ミオのご機嫌も直ったし……写真、撮るんだろ?」
落ち込んでいる私を、夢桜を乗せた膝を上下に揺すりながらパパが慰めてくれた。
「うん」
パパの言葉に促されて、頷きながら私はため息のように大きく息を吐き出した。
気を取り直して私は、首から下げたカメラを両手で構え、ケーキと、夢桜と、パパを一つのフレームに収めてシャッターを押した。
――パシャ!
暗い部屋でもきれいに写真を撮る方法、調べて勉強してたのに……その技を使うのは、また今度だなぁ。夢桜がもう少し大きくなってから……
そんなことを考えながら、回り込んだり、構図を変えながら、何度かシャッターを押す。