7月期優秀作品
『パシャ!』伽倶夜咲良
「こっちだよ、こっち、こっち……ミオちゃん……こっちだよー」
――パシャ!
パパが私の横で、娘に向かって呼びかける。
娘の名前は夢(み)桜(お)。私たちの初めての子供。生後八ヶ月になったばかり。
私は、デジタル一眼レフカメラを構えてファインダーをのぞき込む。
最近、ハイハイを覚えたばかりで、その様子をカメラで撮そうとしているところなのだ。
パパは、掌を軽く合わせるようにパチパチと両手を叩きながら、夢桜の気を引こうとしているのだが、その必死な感じが、なんだか面白くて、ついつい顔がにやけてしまう。
「パパ、必死すぎぃ……ほんと、キャラ変わったよねー」
「うるさいなー」
元々無口で、必要なことしか喋らないような人だったのに、夢桜のことになると、いつもこんな感じで、何をするにも夢中になってしまう。
パパが続けて言う。
「ミオがハイハイしてるところ撮りたいって言うから……呼んであげないと、どっち向いて行くかわかんないだろ?」
「そうね。そうだよね……うふふ……ありがと」
一方、夢桜の方はといえば、右手と左手を、突っ張るようにして交互に前に出しながら、よたよたとこちらに少しずつ近づいて来ていたのだが、急に、今まで身体を支えていた腕を伸ばして、お腹をぺたっと床に付けてしまった。
「あっ!」
急に倒れたことにビックリして、私は思わず声を出してしまった。
そして、ファインダーから顔を外して、夢桜を見てみると、パパがもう、夢桜の元へ寄り添っていた。
「ミオちゃん、大丈夫?どうしたの、疲れちゃったのかなー」
パパがそう話しかけながら、手足を伸ばして床にくっついている夢桜を抱き起こそうとしていたが、夢桜は、パパの手を避けるようにジタバタと手足をバタつかせながら、キャッキャと笑っている。
ハイハイに飽きちゃったのか、『パパの言いなりにはならないぞ』と、パパをからかって楽しんでいるのか……たぶん、後者。
「もう、パパが遊ばれてるじゃん」
「うるさいなー
そんなことないよねー、ミオちゃん」