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『柚は幸せの素』守村知紘


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 だけど子供からすれば、あんな人でも父親なのだし、居てくれた方が安心だろう。少なくとも路頭に迷わなくて済む。子供は案外聡いから、両親の離婚がどれだけ自分の害になるか理解しているものだ。だけど柚は、

『――――……柚、お母さんと二人でも平気だよ。だから辛いなら、もう無理しなくていいよ』

 あの時も、小さな手で私の手を握ってくれた。

 娘の前で、夫への不満や、生活の辛さを口にしたことは無いつもりだった。だけど多分、あの子は気づいていたんだろう。私が気づかない間も、あの子は私を見ていて、誰にも取り上げられない苦しみや悲しみに気づいて、小さな手で救おうとしてくれた。

「お母さん、どうして泣いているの?」

 顔を覆って泣き出した私に、娘はハッとして、

「お仕事そんなに辛いの?」

 オロオロと私の様子を窺いながら、

「ゴメンね、柚。何もしてあげられなくて……」

 泣きそうに顔を歪ませる柚を、

「そんなことないよ。柚は居てくれるだけでいいの」

 私は膝を着いて、ギュッと抱きしめた。

「ありがとう、柚。いつも側に居てくれて」

 悲しい訳じゃないと伝わったのか、強張っていた柚の体から、ふっと力が抜けた。私は体を離すと、

「折角だから、お風呂、一緒に入ろうか?」

 
 柚は自分が入らなかっただけで、お湯は貯めておいてくれたらしく、すぐに二人で入ることが出来た。思えば娘が一人でお風呂に入れるようになってから、一緒に入るのはこれが初めてだ。久々の一緒のお風呂に、お互いにはしゃぎながら、色の変わったお湯を貯めた狭い浴槽に身を寄せ合って入る。熱いお湯に肩まで浸かりながら、

「温かいねぇ」
「いい匂いがする」

 入浴剤が珍しいのか、お湯を掬ってクンクンする娘に、

「この匂いはね、柚って言うんだよ」
「柚と同じ?」

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