額に手を当てたけど、熱は無さそうだ。じゃあ、どうしてだろうと不思議がっていると、柚は背中の後ろに隠していた物を、私に差し出した。それは、
「綺麗なお風呂で、これを使って欲しいの」
「これって……」
ドラッグストアで良く見かける、炭酸湯が出来る入浴剤だった。私は子供の頃から貧乏だったので、結婚後、夫の知り合いからお歳暮でもらう以外に、入浴剤なんて贅沢品を使ったことはない。それを柚は、
「昨日の商品券で買ったの。温泉には連れていけないけど、疲れに効くって言うから」
せめて入浴剤を使って温泉気分を味わえるように、私のために入浴剤を買ってくれたと言う娘に私は、
「……ゴメンね」
「?」
「柚にたくさん迷惑をかけちゃって。本当はもっと、自分の欲しいものがあったよね」
嬉しくなるよりも、むしろ申し訳ない気持ちになった。500円もあればお菓子だって漫画だって子供が好きそうなものは、大体買えるのに。何処までも娘に我慢させている自分が不甲斐なかった。しかし柚は、
「違うよ」
ちょっと怒ったように私を見上げると、
「柚はお母さんに喜んで欲しいんだよ。お菓子より漫画より、お母さんが喜んでくれた方が、柚は嬉しいんだよ」
「……」
それに私が言葉を返す前に、
「……あのね」
柚は小さな手で、そっと私の手を取ると、
「柚は大丈夫だから、お母さんは、あんまり無理しないで。柚のことばっかり気にしないで、自分にもちゃんと優しくして」
「っ」
この子を護らなきゃいけない。自分のせいで損をさせたくないと、ずっと思って来た。
……だけど今、思い出した。あの人の裏切りを知って、もうこれ以上は耐えられないと思った時。私は親としてあるまじきことをした、
『――――……柚はやっぱり、お父さんが居た方がいいかな』
流石に他に女が居たとは言わなかったけど、柚に言外に許しを求めた。お願いだから、あの人と別れさせて、ここから逃げさせてと縋った。