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『柚は幸せの素』守村知紘


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 この子に聞こえないのを良いことに、ポツリと胸の中の毒を零した。母の厚意をありがたく思いながら、同時に湧き上がった罪悪感。

「もっと色んなこと、ちゃんと出来れば良いのに」

 子供の頃は、良い子になって母を安心させてあげたかった。この子に対しては、良い母親になって幸せにしてあげたかった。だけど、私はどっちも出来ていない。私は今でも母に心配をかけているし、子供にも不自由ばかりさせている。

 他の人だったらきっと、もっと上手くやれていたんだろう。別れた夫にも、良く言われた。仕事や家事が大変だと感じるのは、お前が人より不出来だからだって。他の人間はお前より、もっとちゃんとやっているって。

 それは今も同じこと。私と同じ仕事をしながら、上手いこと時間をやりくりして、または寝る間も惜しんで、幾つも仕事を掛け持ちしている人も居る。娘のためを想うなら、私も仕事を増やして、または資格を取って正社員を目指すなどして、少しでも収入を増やすべきだ。

 だけど柚と一緒に居てあげる時間が少なくなると言うのを差し引いても、パートと日々の生活でいっぱいいっぱいだ。

「……ゴメンね、柚。私がお母さんでゴメン……」

 目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとする。だけど、涙だけは零さなかった。泣いて自分を憐れむことだけは絶対にすまいと、離婚した時に決めていた。

 
 その翌日。仕事を終えると、近所のスーパーに寄って帰宅した。世の正社員達はもっと遅い時間に帰宅するのに、これだけで参っている自分が情けないけど、ぶっちゃけこの後の家事を考えると、もうへとへとです。

「ただいまー」

 それでも娘には疲れを見せないように、努めて明るい声を出すと、

「おかえりなさい!」

 柚がパタパタ駆けて来た。世間の風は冷たいけど、愛娘は今日も天使です……って、

「あれ?柚、まだお風呂に入ってないの?」

 いつもなら自分でお風呂を入れて、入浴を済ませておく柚が、今日は服を着替えていないのに気付いた。私の質問に柚は、

「今日はお母さんが先に入って」
「どうして?もしかして具合悪い?」

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