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『麻子さんのつづき』あねのほるん


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 ノートを見つけたあの日から、私たちの食卓にこんな口上が付くようになった。無理矢理同時に紹介するためてにをはの使い方がおかしくなるが、それすらも面白がっている。
「喜一さんって、誰だっけ?」
「ええと、麻子さんの、ひいおじいさん」
 傍らにはいつも麻子さんのノートがある。位牌の裏を見て名前を知って以来、私たちは「大叔母さん」なんて遠い呼び方をするのをやめた。呼びやすいというのもあるが、同時に知った享年が私やお兄ちゃんとあまり変わらなくて、とても「おばさん」と呼ぶ気持ちでなくなったというのもある。
「お兄ちゃん、今日はどうだった? お散歩」
 じゃがいもを頬張りながら、私はお兄ちゃんに問うた。お兄ちゃんは体調に合わせて毎日ちょっとずつお散歩をするようになった。リハビリの一環らしい。家の裏にある納屋で麻子さんの先代が使っていたステッキを見つけて、それを相棒にしている。
「調子いいよ。ちょっと向こうまで歩けば、舗装されてない道があるんだ。土を直に踏むのはやっぱり気持ちがいいよ」
「舗装されてないなら、石がごろごろしたりして、転んだりしやすいんじゃないの?」
「まあ、多少の石ぐらいならあるけど、それぐらいは相棒でどけるさ」
 お兄ちゃんは、ステッキで石を跳ねのける動作をした。簡単にどけられない埋まった石はどうする気だと重ねて問おうとしたが、そしたら相棒で掘り起こしてどけるとでも言いそうなのでやめておく。
 私も毎回同行したいのだが、何故かお兄ちゃんがそれをさせてくれない。私が手の離せない家事をしている隙に、ふらりとマイペースに出て行ってしまうのだ。お父さんから任された身としては、あんまり一人で知らないところに行ってほしくない。何かがあって助けが必要になっても、目印のないこんな田舎では駆け付けようがない可能性だってある。なのに、なかなかそれが伝わらない。
「燈子。小言言いたい気持ちはわかるけど、心配性なのは燈子の悪い癖だ」
「じゃあ、マイペースが過ぎるのはお兄ちゃんの悪い癖だね」
 私の心配を癖で片付けるお兄ちゃんは、ちょっとだけ嫌いだ。食事がまずくなるのでこれ以上きつくは言わないが、釘ぐらいは何本でも刺しておきたい。
「あれ、仏壇の花変えたのか」
「うん、しおれてたし。庭に咲いてた花だけど、ついでに全部」
 悪くなりそうな空気をかえるために投げられたのんびりとした質問に答える声は、まだちょっとだけ尖っていた。
 移動が面倒なので、私たちはキッチンのあるフローリングスペースに籐の椅子と段ボールを置いてダイニングにしている。だから畳の向こうに並ぶ仏壇が、食事中しっかり目に入る。ついでに全部、とは、その仏壇の左右に色々祀ってある方々だ。右側の棚には榊を供える神棚があるし、左側の床の間には、ミニチュアのお寺のようなものと、マリア像がある。
「和洋折衷どころじゃないよな、これ」

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